25.混線。ハローハロー。
「テソロ?」
僕はその言葉の意味が分からず聞き返す。
「宝箱のことだ。コンキスタでは宝箱のことをテソロと呼ぶんだ。たしか最初にジョンから説明があったはずだぞ」
「あぁ、そうでした、そうでした」
とは言ったものの、正直、ジョンの話は適当に聞き流したので全然覚えていない。
僕は話を合わせると、宝箱――いや、テソロに視線を落とす。
氷室先輩が突然現れたことですっかり忘れてしまっていたが、僕はここまでテソロを探しにきたのだった。
「テソロにはまだ触れていないんだろう?」
先輩がたずねる。
「はい。まだです」
「テソロを見つけたら、まずはテソロをロックしてオープン権を確定しておくことをおススメする」
「オープン権?」
またも飛び出す知らない言葉に僕は聞き返す。
「テソロにはテソロを開ける権利、オープン権というものがあって、オープン権を持つもの以外は開けられないようになっているんだ」
「へぇ、そうなんですか。そのオープン権っていうのはどうしたら手に入るんですか?」
「誰もオープン権を持っていないフリーのテソロに触れることで得ることができる」
「……それは、要は早い者勝ちということですか?」
「その通りだ。ただし、権利には制限時間があり、五分以内にテソロを開けないと権利は消失してしまうんだ」
先輩は親切丁寧に説明してくれる。
ジョンの話は聞く気にならないが、先輩の話なら聞く気になるから不思議だ。
「そのテソロはまだオープン権が確定していない。つまり、現時点では誰にでも開けるチャンスがあるということだ。後から来たコンキスタドールに横取りされないためにもテソロを見つけたら、まずはオープン権を確定させておいた方がいいだろう。」
そして、アドバイスまでしてくれる。
ジョンと違い、なんて親切なのだろうか。
「なるほど。……でもこれ、僕が触れていいんですか?」
僕は若干躊躇して先輩にたずねだ。
「先輩もテソロを見つけていたってことですよね?」
先輩の説明だと、現時点では僕にも先輩にもテソロを開ける権利があるということだ。
僕が勝手に触れるのはなんだか気が引ける。
「君が先に見つけたテソロだろう、遠慮することはない」
先輩はあっさりとそう言ってくれた。
「ありがとうございます。それじゃあ触れてみます」
「いいアイテムが出るといいな」
「そうですね、まぁ、そう簡単には出ないと思いますけど」
僕はそう言うと、今度こそテソロを開けようとしゃがみ込む。
そのときだった。
突然、僕の視界にノイズが走った。
一瞬、電波が混線したかのようにコンキスタの映像が途切れる。
そしてそれが一度だけでなく、何度か続いた。
「なんだ……?」
それは明らかにおかしい現象だった。
ほんの一瞬、一度だけなら機械のちょっとした不調かと思うこともできた。
しかし、電波障害のような不自然なノイズは一向に収まる様子がない。
それどころか次第に長く、大きくなっていき、どんどん画面が見づらくなっていった。




