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19.宝箱。世はまさに。

 僕は特に急ぐ必要もなく、散歩でもするようにのんびりと歩いていく。


 この街の開発が始まった当初から住む僕にとって、この辺りは庭と言ってもいいほどよく知る道だった。

 しかし、コンキスタを通して見る風景は、まったく知らない土地にやって来たかのようだった。



 歴史の授業でモヘンジョダロやマチュピチュなど実在の古代遺跡の画像を見ていると、遥か昔にそこにあったはずの特殊な文化や当時の人々の生活を想像し、ロマンを感じるのは僕だけではないはずだ。

 コンキスタはそのロマンを疑似体験させてくれているようだった。



 僕は本当に新たに発見された古代遺跡を探索するように興味深く辺りを見渡しながら歩く。

 途中、一度だけ犬を散歩させるおばさんとすれ違ったが、古代遺跡を背景にごく普通の格好をしたおばさんが犬を散歩させている様子は何とも言えずシュールだった。


 十五分ほど歩き住宅街の外れまでやってくると、今まで地図の外枠にあった青い点が地図の中に収まり、青い円として表示される。

 どうやら目的地に近づいてきたようだ。

 さらに青い円を目指して五分ほど歩くと、僕はついに青い円の中心に立った。



 この辺りはまだ開発途中の地域で、ほとんど人が住んでいない場所だ。

 マンションや住宅の建築が進んでいるが空き地も多く、人通りはまったくない。

 本来なら造成されただけの何もない空き地が続いているはずだが、コンキスタを通して見る風景は荒涼とした草原のようだった。



「ここにテソロとやらがあるのか?」


 僕はそう言って足下を見回す。

 しかし、僕の周りにそれらしいものは何も見つからなかった。

 何かイベントでも起きるのかと待ってみても何も起きそうにない。


「うーん、なにもないぞ?」


 途方に暮れる僕は再び所持品を開き電子コンパスを選択する。

 そして、説明文をもう一度読んでみることにする。


『使用することで()()()()テソロの位置を感知する――』


 もしかしてこの青い円、中心にテソロがあるわけではなく、この円の範囲のどこかにあるということだろうか。


 僕はそう理解すると、きょろきょろと辺りを見回しながらそれらしいモノを探して歩く。

 しかし、円の範囲は意外と広く、なんの手掛かりもなく探すのは苦労しそうだった。



 しばらく辺りをうろついていると、打ち捨てられたように立つ道路工事のガードフェンスの向こうにキラリと光る四角い箱の形をしたものを発見した。

 それはそろそろ沈もうかというオレンジの陽の光にひっそりと照らされている。

 まるで誰かに見つけてもらうのをじっと待っているかのようだった。



「あれか……」


 僕は辺りを見回して人がいないことを確認する。

 そして、腰ほどの高さのガードフェンスを乗り越え工事現場に侵入すると、箱まで近づいていく。



 箱は一メートル四方ほどの大きさの木製の箱だった。

 現実には存在しないモノを木製というのもなんだか変な気がするが、その見た目はまぁ木製だ。

 継ぎ目には金属の留め金がついており、装飾がほどこされている。

 海賊映画なんかに出てきそうな、いかにもといった雰囲気の宝箱だった。



「これがテソロ……?」


 中にはいったい何が入っているのだろうか。



 もしかしたら十億円が――



 涼にあれだけ謙虚堅実と言っておきながら、いざ宝箱を前にすると思わずそんな淡い期待を抱いてしまう。

 ARとはいえ、目の前に宝箱がありその中にお宝が眠っている。

 その中身を確かめるというのは、なにかクジを引くようなワクワク感と少しの緊張があった。



 僕はゆっくりと宝箱に手をかける。

 そのときだった――

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