18.レンズ越しの廃墟。テソロ?。
僕はエクステンドをつけて家を出ると、マンションの前の道路に立つ。
そして、きょろきょろと辺りを見回した。
「おぉ……」
部屋の中とはまた違う黄金都市の風景に再び声を漏らす。
振り替えると、僕が出て来たマンションは高校野球の聖地のようにツタが何年もの歳月をかけて育ったように生い茂っていた。
それは僕の住むマンションだけでなく、周りの建物全てがそうだった。
建物は朽ちて道路はひび割れ、いくつも雑草が伸びている。
道路に停まる車は錆びつき色褪せている。
街は放棄され何十年も人が立ち入ることがなかったように荒廃していた。
もちろんこれは現実ではない。
コンキスタがエクステンド上に投影している拡張現実だ。
しかし、そうと分かっていても驚いてしまうほどのリアリティだった。
「涼が言ってった通り、本当に街が遺跡になったみたいにリアルだな……」
僕はそう言うと、エクステンドを少しずらす。
そして、裸眼とエクステンド越しの風景とを見比べてみた。
裸眼で見る街は見慣れたいつもの風景だったが、わずか数ミリのレンズを隔てればそこには荒れた廃墟が広がっている。
まったく別の世界の風景を見ているようだった。
僕は再びエクステンドをきちんと装着する。
コンキスタの荒涼とした街からはうら寂しい雰囲気が漂っている。
しかし、人工物が自然によって浸食された風景はどこか幻想的にさえ思えた。
もし、登美ヶ丘市から突然全ての人が消え、何百年か後に街が発見されたら、こんな風になっているのかも知れない。
遠い未来の可能性にそんなノスタルジーのようなものを感じるから不思議だった。
僕はひとしきり感動を覚えた後、ディスプレイ上のユーザーインターフェースを確認する。
コンキスタが起動したエクステンドのディスプレイの右上には小さく地図が表示され、右下にはアイテムボックスや人型などのいくつかのコマンドアイコンがあった。
そして左下にはログが表示されるテキストボックスと時間が表示されている。
「そうだな……」
僕はとりあえずアイテムボックスのアイコンをタップして所持品を確認する。
アイテムリストには電子コンパスというアイテムがひとつあるだけだった。
そういえば、チュートリアルの最後にジョンから手渡され、なにか言っていた気がする。
ぜんぜん聞いていなかったので、なにも覚えていないが。
とにかく、始めたばかりの僕にとってこれが唯一の所持品ということになるらしい。
僕は電子コンパスを選択してみる。
すると、横にアイテムの説明をした文章が現れた。
説明文には、
『使用することでテソロから発せられる特殊な電波を感知することの出来るコンパス。大まかなテソロの位置を感知する。』
と書かれている。
「テソロ……?」
いきなり専門用語を使われても困る。
テソロが一体なんのことなのか僕は分からなった。
しかし、これが唯一の所持品である限り、これを使ってみるしかなさそうだ。
僕は唯一の所持品である電子コンパスを使用する。
すると、ディスプレイにある地図の中心からソナーのようなものが発せられ、地図の右端、方角で言えば南東の方向の外枠に薄く青い点が表示された。
試しに僕がぐるりと体の向きを変えると、それに合わせて地図と青い点の方向が変化する。
しかし、青い点の示す先は常に南東の方角だった。
なるほど。地図の中心が僕の現在地で、この青い点がテソロとやらの位置を示しているわけだ。
僕は感覚的にそう理解する。
「こっちに進んでみればなにかあるってことか」
僕はそう言うと青い点が示す方向を確認する。
点の位置は地図の外にあるためはっきりとした場所は分からないが、方角的には住宅街の外れへと向いていた。
「とりあえず向かってみるか」
僕は青い点の方角に向かって歩き出した。




