17.現実はリアルタイムレンダリング。チュートリアル。
僕の部屋は古代遺跡の一部と化していた。
部屋の壁は色褪せコケが生い茂っている。
目の前にあるテーブルは何十年も使い込まれたようにくすみ、脚にはツタが絡みついている。
床はところどころひび割れ、その隙間から雑草が生えている。
部屋の隅には石片が転がり、いつのまにか廃墟の一室のようになっていた。
「こりゃすごい……」
リビングのソファに腰掛けているのを忘れてしまいそうになるほどリアルな遺跡だ。
僕は試しに床から伸びる雑草に手を伸ばしてみる。
しかし僕の指先は雑草をすり抜け、冷たいフローリングの感触が指に触れた。
あたりまえだ。何もなかった部屋に一瞬でコケや雑草が生えてくるわけがない。
エクステンドのディスプレイ上に拡張現実として疑似的に表示されているのだ。
エクステンドにはイメージセンサーが搭載され、フレームの両端に付いている二つの超小型レンズから空間情報を認識している。
その情報を基に、実在の物体にCGを重ね、まるで廃墟のような演出をリアルタイムでディスプレイに表示しているのだ。
AR技術は年々進歩しているが、今までのARを使用したゲームは精度と処理速度に問題があり、位置情報のズレや表示にラグがあった。
しかし、さすがアヴァンサールというべきか、コンキスタはまるで本当に廃墟の一室に腰を下ろしているかのようにリアルなグラフィックと精密さだった。
「やぁ」
僕がコンキスタの映像に感動していると、突如、誰かに声をかけられる。
リアルな声ではない、ゲーム上の音声だ。
そして画面上に現れたのは、フォトリアルなCGキャラの男性だった。
「聞いてるぜ。キミがgoodfellowだな?」
男は僕に向かって話しかける。
「オレの名前はjohn。このベースキャンプで冒険者の管理役をしているんだ」
ジョンと名乗った男はそう言うと、聞いてもいないゲームシステムの説明を始める。
どうやらコンキスタの案内キャラクターのようだ。
ご都合主義的なキャラクターだが、まぁゲームである以上、説明役の存在は仕方ない演出だろう。
「こういうのは習うより慣れろなだよなぁ」
コンキスタのARに興奮を覚えていた僕は、ジョンの説明を適当に聞き流す。
僕は説明書を読まないタイプなのだ。
要はとにかく歩き回って宝箱を探せということだろう。たぶん。
僕は自分の中で勝手に納得すると、早々にチュートリアルを終える。
「ほかになにか聞きたいことは?」
ジョンの言葉に僕は首を横に振る。
「そうか。それじゃあ期待してるぜ」
チュートリアルを終えたジョンはそう言うと、どこか寂しそうに画面から消えていった。
「よし、それじゃあちょっと外に出てみるか」
僕はそう言ってソファから立ち上がると、古代都市シボラへと踏み出した。




