16.†アカウント†。シボラへ。
真っ暗になったディスプレイの中央に、
『conquista』
という文字が浮かび上がってくる。
どうやらアプリが起動したようだ。
そして背景が青い半透明の近未来的な背景に変わり、アカウントの登録画面が表示された。
当然と言えば当然なのだが、コンキスタもアカウントの登録が必要らしい。
コンキスタのアカウント名は、カナ、ひらがな入力不可で、アルファベットで登録しなければならないようだった。
「アカウント名か……」
僕はそうつぶやくと、アカウント名を考える。
本名なんてもってのほかだが、厨ニ臭くなっても恥ずかしい。
かといって、単純でありがちな名前では他のプレイヤーとかぶってしまい何度も入力させられるハメになるだろう。
アカウント名を決めるのは意外とセンスが問われるのだ。
僕の苦手な作業だった。
「うーん……、そうだなぁ」
僕はそう言って頭を悩ませる。
何か食べ物の名前をつけるか、アニメやマンガから拝借するか。
それとも、あだ名や歴史上の人物名か。
僕は数分考えた後、ソファから体を起こす。
そして、コンキスタのヴァーチャルキーボードを起動させた。
ヴァーチャルキーボードは机や壁にレーザーで投影されたキーボードを使い、文字を入力するシステムだ。
リビングのローテーブルにキーボードを投影させると『goodfellow』と入力する。
名前の由来は……聞かれても説明しないことにしよう。
エンターキーを押すと、幸いにも一発でアカウント登録することが出来た。
「よしよし」
僕がほっとしていると、ゲームがスタートする。
ローディングが終わるとオープニングムービーが始まった。
僕は自宅にいるため、エクステンドを操作してディスプレイの透過率をゼロに設定する。
グラスタイプのARデバイスは透過率をゼロにすると視界全体が完全なディスプレイとなる。
サイドフレームからは骨伝導音響システムにより音声が伝わり、まるで目の前でイベントが起きているかのような臨場感を味わうことができた。
ゲームの導入となるオープニングムービーの内容は、伝説の古代遺跡『シボラ』が最近発見されたところから始まる。
そこで、知り合いの考古学者からトレジャーハンターである主人公のもとへ遺跡調査の依頼が来るというものだった。
同時にウワサを聞きつけた多くのトレジャーハンターが動き出す。
そして、主人公である僕が黄金都市シボラに足を踏み入れたところでオープニングムービーが終了した。
「なるほど、登美ヶ丘市を古代遺跡見立ててそこに眠るお宝を探して回れってことか」
僕はムービーを見てなんとなくゲームの世界観を理解する。
ムービーが終わると再びディスプレイが暗転し、それからゆっくりと元に戻っていく。
ディスプレイの透過率は自動的に変更されているようで次第に視界が開けいく。
すると、僕の目の前には黄金都市シボラのベースキャンプが広がっていた。
「おぉ……」
その光景に僕は知らず知らずのうちに声を漏らしていた。




