13.街。アヴェニュー×ストリート。
放課後。
終礼のショートホームルームを終えると、僕はいつものようにさっさと学校を出る準備をする。
その僕よりも早く教室を出ていったのは藍だった。
「お疲れー!」
藍は朝と変わらないテンションで風のように教室を飛び出していく。
どうせ今からスポーツジムにでも行ってひと暴れするのだろう。
本当に同じ人間なのか。
どこからそれだけの元気が溢れてくるのか僕には謎でしかなかった。
僕は学校を出ると朝通った道を戻りバス停から居住区行きのバスに乗る。
居住区の中央駅ロータリーでバスを降りるとそこからは徒歩だ。
ここから自宅までは十分ほどの距離だった。
登美ヶ丘市はもともとあった街を再開発したわけではない。
湾岸沿いの丘陵地帯をいちから開発した街だ。
居住区はそのなかでも平地に作られている。
京都とマンハッタンの都市をモデルに開発され、縦の通りを『〇番街』、横の通りを『〇の通り』として、きれいに区画が分けられていた。
そして居住区を横断するように懸垂式のモノレールが走っている。
そのなかでも中央駅は最も乗降客の多い駅だった。
中央駅から上下に真っすぐ伸びる8番街は最も賑わう通りで、通称『セントラルアヴェニュー』と呼ばれている。
道路は小型飛行機が着陸できそうなほど広く、電線などインフラ設備は全て地下に埋められているので空を見上げても視界を遮るものはなにもない。
セントラルアヴェニューは多くの人が集まる通りだけあって、沿道には商業ビルや施設が立ち並んでいる。
しかし、どの建物の屋上にも、壁面にも、道路沿いでさえ派手な看板やピカピカとまぶしいデジタルサイネージ類は見当たらなかった。
というのも、登美ヶ丘市では街屋外広告を禁止する条例が定められているのだ。
広告だけでなく案内板すら出せないと店も客も混乱しそうだが、必要な情報は全てARデバイスを通して得ることができるようになっていた。
店にとっては、常に最新の情報や案内をCGやアニメーションで視覚的にアピールすることが出来る。
住人にとっては見たいときだけARデバイスを利用して情報を得ることが出来る。
両方にとって都合がいいというわけだ。
つまり、この街での生活にARデバイスは必須アイテムと言ってもよかった。
実際にAR端末機能を備えたスマートフォンを含めれば、ARデバイスの普及率はほぼ百パーセントらしい。
僕はセントラルアヴェニューを歩きながら、胸ポケットからメガネを取り出してかける。
目が悪いわけではなく、このメガネがARデバイスになっているのだ。
ARデバイスは大別してカメラタイプとメガネタイプの二種類が存在している。
カメラタイプは必要に応じていちいち目の前で構える必要があるため、登美ヶ丘市ではほとんどの人がグラスタイプのウェアラブルデバイスを使用していた。
その中でも、この街に本社を置くウェアラブルデバイスメーカーである内田技研の『エクステンド』と呼ばれるグラスデバイスが最も人気だった。
エクステンドはこれまでのグラスタイプのARデバイスに比べてかなり軽量化されており、見た目はほとんど普通の眼鏡と変わらない。
さらに、様々な色やフレームデザインを自分の好みに合わせて組み合わせることができ、人気となっていた。
ちなみに、僕のARデバイスもエクステンドだ。
デザインはスクエア型の黒色で、僕の人間性と同じくオーソドックスなタイプである。
僕はエクステンドの電源を入れ、広告を含めた全ての表示をオンにする。
すると、落ち着いた街並みはあっという間に現実とはまったく別の顔を見せる。
ビルの壁面には映像広告が流れ、店舗には看板や案内板が表示される。
さらに、夜になればデジタルサイネージやネオン看板が灯され、その街並みはちょっとしたサイバーパンクのようだった。




