12.アルバイト。電子社会の情報網。
「なんで藍が出てくるんだよ」
僕は言った。
「オマエら仲いいじゃねーか。オレは脈アリだと思うぜ?」
「気のせいだ。ただの中学からの腐れ縁だよ。なに言ってんだまったく」
僕は焚き付けようとする涼を軽くあしらう。
「なんだよ、お前のためを思って言ってるのに。彼女でも作って高校生活を満喫しろよ」
「はいはい」
涼の場合、決して親切心からのアドバイスではない。
ただ面白いことになればいいとしか考えていないのだ。
「そんなこと言って、どうせ『トラスト』のネタにでもするつもりだろ?」
「お、おい!」
僕の言葉に涼は慌てた様子で周りをうかがう。
「僕の恋愛事情をふざけたアルバイトに利用されちゃかなわないからな」
「だから! デカい声で言うなって!」
涼が僕の口を抑えようと手を伸ばすが僕はそれを素早くかわす。
何が楽しくて男に口元を抑えられなきゃいけないのか。
とはいえ、涼が慌てるのも無理はない。
なにせ、人には言えないアルバイトをしているのだから。
涼はトラストと呼ばれるグループの一員である。
トラストの活動内容は、様々な情報を収集し必要とする人間に提供すること。
つまり、情報屋というやつだ。
その名前はアングラネタが好きな人間のあいだでウワサレベルで語られる程度で、規模やメンバー、存在さえ謎に包まれている。
しかし僕は、涼がグループのメンバーであることをとある理由で知っていた。
「バレるとクビどころか停学なんだから頼むぜホント……」
「人目をはばかるようなことしてるからだろ」
登美ヶ丘高校では生徒のアルバイトは自由だが届け出が必要だ。
アルバイトの内容についても基本的には自由だが、学生にふさわしい内容とされている。
もちろん情報屋なんてアルバイトを届け出たところで学校が許可するはずもなく、涼は学校に内緒で活動しているのだった。
「ったく……。お前のゴシップなんて誰も欲しがらねぇよ」
涼は疲れた様子で椅子に腰を下ろす。
「わかってるよ。冗談に決まってるだろ」
僕だって自分の恋愛事情がお金になるなんて思っちゃいない。
ちょっとした仕返しに涼をからかっただけだ。
「それにお前だって似たようなもんだろ。アルバイトの届出してないんだろ?」
涼が不満気に僕を見て言った。
「僕はアルバイトじゃなく家業手伝いだからな、別に届出を出す必要はないワケだ。何も後ろめたいことはないぞ」
「ただの屁理屈じゃねぇか」
不満そうな涼を横目に僕は腕時計の時間を確認する。
昼休み終了まで残り十分ほどになろうとしていた。
「さて、僕はそろそろ教室に戻るよ」
僕は話に区切りをつけるようにそう言うと、席から立ち上がる。
「涼はどうする?」
「オレはもうちょっと副会長を眺めてから戻るよ。もしコンキスタを始める気になったら最初にオレに声かけてくれよ、頼んだぜ」
涼はテラス席に視線を向けると、なにかのついでみたいに言った。
「はいはい」
僕は涼の言葉を適当に聞き流すとテーブル席を後にした。




