11.シリアルキラー。ダイヤモンドは砕けない。
「なんだよぉ、アヴァンサールが最新のAR技術をフル活用して作ったゲームだぞ? おまけに十億手に入れるチャンスまで付いてくるっていう、この街に住む人間だけのチャンスなのに、ホントもったいねぇ」
涼は大げさな身振りでいかにも僕が損しているかのような口調で言った。
その仕草はまるで悪徳セールスマンだ。
やっぱりコイツは怪しい商品の勧誘が向いているのかもしれない。
「あいにく、謙虚堅実、平穏無事が僕のモットーでね」
「オマエはどっかのシリアルキラーかよ。夢がねぇモットーだなぁ」
涼はつまらなさそうにボヤく。
「とりあえず登録だけでもどうだ?」
「そうだなぁ、考えとくよ」
僕はこの場をやり過ごすためだけの適当な返事をする。
涼もそれを理解しているのか、呆れた顔で僕を見た。
「はぁ……、まったくオマエは一年のころからそうだよな。割と何でも器用にこなすのに、何にも興味を持たないっていうかさぁ。そんなんじゃ高校生活楽しめないぞ」
「おいおい、それじゃあまるで僕が高校生活を楽しんでないみたいな言い草じゃないか」
実際、高校生活を謳歌しているワケではないが、僕としては現状そこそこ満足している。
平凡な一市民としては、今のところ悪くない学校生活だろう。
「部活もしてない、趣味もない。それで何を楽しんでるって言うんだよ?」
涼は納得いかない様子で言った。
「別にいいじゃないか、主観の問題だよ。僕は僕なりに楽しんでるんだよ」
「ホントかよ」
涼は疑いの視線を僕に向ける。
「ホントだって」
「それじゃあ、オマエが最近一番興味あることを教えてくれよ」
「興味あること? そうだなぁ……」
涼の言葉に僕は少し考える。
「女の子にはいつだって興味を持ってるぞ」
そしてそう言った。
思春期の男子としては間違っていない回答だろう。
「その割に副会長には興味なさそうじゃねぇか」
涼はそう言うと、テラス席にチラリと視線を向ける。
テラス席は相変わらずそこだけ別空間のようで、氷室先輩は優雅に食後のお茶を飲んでいた。
「興味がないというより、どう考えても手が届かないからな。僕はもっと現実的なんだよ」
先輩の座るテラス席と、僕の座る室内のテーブル席。
距離にしてみれば十数メートルだが、その間にはマリアナ海溝よりも深い溝が存在しているのだ。
僕なんかが渡ろうと試みればたちまち深海に消えてしまうだろう。
「ニヒルなふりしてただの言い訳じゃねぇのか?」
涼は冷ややかな視線で僕を見る。
「……どういう意味だよ?」
「さぁね。たまには当たって砕けろってことだよ」
「砕けてどうするんだよ。それに氷室先輩じゃ砕けるどころか粉々だよ。声をかけるだけで他の男子に目の敵にされるぞ」
「それじゃあ同じクラスの香坂なんかどうだ?」
涼は急に俗っぽい顔をして言った。




