09.拡張現実。あなたは神を信じますか。
「なんか、今までにもありそうなゲームだな」
僕は涼の説明を聞いて言った。
「確かにゲームシステム自体はそこまで目新しいもんじゃないかな。だけど、映像はすごいぞ。本当に現実が変化したのかと思うぐらいリアルなARだぜ」
AR―オーグメンテッドリアリティ―とは、
カメラなどのデバイスを通じて現実世界に仮想空間上のデータ情報をレイヤーのように重ねせて表示する技術で、いわゆる拡張現実というやつだ。
リアルとヴァーチャルの中間とでも言えばいいだろうか。
現実世界に存在しなくても、仮想空間上にデータとして存在すれば、拡張現実端末を通じて視覚的に認識することができる。
例えば標識や看板。
現実に造り設置するコストよりも、仮想空間にデータで作成し保存しておく方が格段に安い。
内容の書き換えも簡単で、劣化による修理も必要ない。
ARを使えば街の景観を汚さなくても仮想空間を通して膨大な量の情報を表示出来るということで、登美ヶ丘市では新しい街づくりのために特に積極的に取り入れられている技術だった。
「宝箱やアイテムなんかも本当に存在するんじゃないかと思うくらいリアルだぜ」
涼が言った。
アヴァンサールのゲームはもともと、その資金力と技術力による美麗なグラフィックがウリだ。
登美ヶ丘市に開発拠点を置いたのもAR専用のグラフィックエンジン開発のためと聞いたことがある。
そして実際にゲームに活かされているというわけだ。
「でだ。ゲームの中に十億に繋がる情報が隠されていて、それを見つけて最初に謎を解いたヤツが十億円を貰えるってわけだ」
「なるほどね」
僕は納得して言った。
リアルなグラフィックに賞金十億円。となれば話題にもなるわけだ。
「そこで相談なんだけどさ」
涼は親子丼の最後の一口を飲み込むと、怪しい笑みを浮かべて僕を見る。
「……なんだよ?」
「まだコンキスタをやってないならオレと一緒にやらないか?」
その言葉に僕は怪しげな宗教勧誘を見る目で涼を見る。
「今まで一人でやってたんだろ? なんで今さら僕を誘うんだよ」
「いやぁ、たまにはオマエと仲を深めるために一緒にゲームでもしようと思ってさ」
いかにも取ってつけたようなセリフだ。
「ウソをつくな。オマエが他人と仲を深めるために一緒にゲームをやろうなんて考えるはずがないだろ」
「おいおい、ひでぇなぁ」
涼はそう言ってワザとらしく悲しむフリをして見せる。
それがまた実に胡散臭い。
「わざわざ昼飯まで誘ってゲームの勧誘なんて、いったい何が目的なんだ? 正直に言えよ」
僕は涼を問い詰める。
涼がなんの理由もなく僕をゲームに誘うなんて、ソシャゲの無料ガチャでSSRを引くよりもありえないことだった。
「分かったよ……、実は最近ランク上げに行き詰ってきてさ」
涼は観念したように両手を挙げて言った。
「ランク上げ?」
「あぁ、まぁレベルみたいなもんだ。コンキスタは探索アイテムを駆使して宝箱を探すんだけど、宝箱を見つけると経験値が貰えてランクが上がって行くんだ。ランクが上がるほど上位の探索アイテムが使えるようになって、レアな宝箱を見つけやすくなるんだよ」
「……ふぅん。それで、どうしてランク上げに行き詰ったら僕を誘う理由になるんだ?」
僕はまだ疑いの目で涼を見たまま言った。
「ギルド組んで仲間とアイテムを探した方が効率良いんだよ」
「ギルド? コンキスタは収集ゲームなのにそんなシステムあるのか?」
僕はてっきりソロプレイのゲームだと思っていたのだが、どうやらそうではないらしい。




