00.プロローグ。またはアヴァンタイトル。
――関東文化学術研究都市、登美ヶ丘市。
深夜1時を過ぎた街は一部を除き、ほとんどが眠りについていた。
芸術セクターもまた静まり返り、小さな外灯だけが寂しく灯っている。
そんな夜の静寂を少しだけ乱し、イベントホールに一人の男が現れる。
男は真夜中にもかかわらずワンレンンズのサングラスをかけていた。
「このあたりか……」
男はそうつぶやくと、何かを探すように慎重に辺りを見回しながら歩く。
しばらくの間、男は周囲に注意を払いながらも辺りをうろうろとさ迷っていた。
「あったぜ……。ったく、こんなものを待ち合わせの目印にするとはな」
外灯の光もほとんど届かない裏口通路付近。
男はようやく目当てのものを見つけたのか、そう言ってため息をつく。
そして胸ポケットから煙草をとりだした。
男が煙草をくわえ、火を点けようとしたその時。
まるで見計らっていたかのように、暗闇から人影が現れた。
男はその人影を確かめると、煙草に火も点けずに吐き捨てる。
「お、ようやくおでましか。例の秘密、聞かしてもらおうか」
そしてそう言った。
人影はなにも答えず、ただうなずく。
「おっと、その前にアンタが目印に指定したコイツを開けさせてもらうぜ。どうせ大したモンは入ってないだろうが、せっかくだからな」
男はそう言うと足下にしゃがみ込む。
その頭上では警棒を握った拳が振り上げられていることに男が気付くことはなかった。
無防備にさらされた男の頭頂部に警棒が振り下ろされる。
――ゴッ!!
静まり返った夜の街に一瞬、鈍い音が響く。
サングラスの男は何が起きたかさえ分からずに意識が途絶えたことだろう。
人影は男が動かないことを確かめると、ゆっくりとしゃがむ。
そこでなにかを行った後、男の着けていたサングラスを奪う。
そして、再び暗闇に消えていった。