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幼馴染は、男心・女心がわかってない。

作者: 枝野はっぱ


『あのさ、相談いい?』

『なに?』

『ゲームで知り合った男がしつこいの。自惚れかもしれないけど』

『どんな感じ?』

『ゲームのこと以外で連絡きたり、電話も毎日来る感じ』



 あぁ、それはヤバい。そう返してやるのは簡単だが、こいつにも分かりやすく伝えるなら一言で済ませない方がいい気がする。分かりやすくとかいっても、俺判断でだけど。

 バイトが終わってスタッフ同士でちょこっと雑談したあと、家に向かいながらSNSで連絡を取ってるのは幼なじみのミコ。こいつはそもそも男心がわかってない。


 前の彼氏とも「男と2人で会うな」と言われて「友達と彼氏は違うから」と、俺の部屋でゲームしながら返事をするような女だ。勿論、その時は1つ下である俺の妹が一緒にいたから2人きりではなかったが、俺以外にも男友達はまぁまぁいるわけで。その彼氏とは結局その後すぐにお別れしていた。

 その他の彼氏とも、なんだかんだで続いていなかったはずだ。理由として考えられる中に、ミコの弟のことも考えられるが、そもそも幼馴染とはいえこういう相談を男にするのが間違っているだろ?

 ましてや俺は誰とも付き合ったことがない。そんな俺が、男女の仲についての相談に乗れるとおもうか?

 文面からは被害者であり迷惑していると訴えているように見えるが、今までのことを考えると完全な被害者とは言い切れない。ミコが何か相手に勘違いさせるようなことをしている可能性がある。



『そいつと連絡取るきっかけは?』

『同じゲームでクランが一緒だったの』

『ゲームだけの繋がりなら電話って無理じゃね?』

『強いからレベ上げ手伝ってほしくて、個人で連絡取った』

『言い出したのは?』

『私』



 ……ほら、やっぱり。こういうところが男心がわかってないんだよ。



『全員じゃないけど、女の子から連絡先教えてもらったら勘違いする男いるぞ』

『いや、それだけで?ヤバいじゃん』

『ほんとにいるって』

『それで勘違いされるなら、こっちから連絡先聞けなくなるじゃん』

『そうだけど、する人はする』

『面倒くさいな』



 面倒くさいなんて、結局「自分は悪くない」って思ってるんだろうな。そもそも、頻繁に連絡取り合っていたからその状況になったんだと思うが「レベル上げがしたいだけで、他のことは興味ない」って考えなんだろうな。

 相手の男とのやり取りを詳しく知らないが「個人的に連絡を取りたい」って、女の子が言ってきただけでも脈アリだと思う人もいるだろう。ましてや自分を頼ってレベル上げがしたいんだと言ってきたら、そりゃ勘違いするだろ。……俺でもする可能性はある。


 まあ、ネットあるあるで素性がわからない相手とのやり取りである以上、勘違いだけじゃなく騙されたりもするしな。言葉だけでなく性別だって偽れるのだ。信じられる相手か見極めないと、自分も同じことやらかすかもしれない。

 とりあえず、家につくまでは放置だな。このまますぐに返事を返し続けるのは、気持ちが高ぶって感情的になりかねない。……俺ではなくて、ミコが。


 バイト先から自転車で10分だが、この時期は徒歩になるため25分はかかる。途中のコンビニに寄ってアニメのコラボグッズを買おうと思っていたから、更に5分。

 でも、すでに半分まで進んでいたから、時間つぶしのためにもう一店舗コンビニに寄って肉まんを買うか。コラボをやってるコンビニのより、そっちの肉まんが好きだから丁度いい。


 なんかスマホがピコピコ煩いが家につくまで放置。既読をつけるとそれこそ面倒くさい。

 バイト中で19時からの新イベもまだ出来ていないし、俺のゲーム時間確保のためにも長引かないようにしないとな。





 ◇ ◆ ◇ ◆





 「うっわ、返事返ってこないし」



 ベットの上で思わずため息。こんなに悩んでるのになかなか返事が返ってこないのが不安になる。

 そもそも、ライは女心がわかっていない。


 一人で考えてたけど不安になって相談しているのに、突然返事が来なくなるとか。こっちの不安を煽るようなことする意味がさっぱりわかんない。

 小学校からなんだかんだで高校まで一緒だった幼馴染。最近はライの妹であるフウちゃんと遊ぶために行くことが多いが、家も近いから家族ぐるみで今でも交流がある。

 

 こういう相談は、女同士だと「モテる女アピール」とか言われたりすることもある。勿論、みんながみんなそうじゃない。でも、一人にだけ相談すると後から他の子にグチグチ言われるし、グループで話すと一気に広がる。実際、噂が広がった子もいる。

 それに、男相手のトラブル?の相談だから、男友達の中でも1番付き合いの長いライに連絡したのに。


 ベットで横になって返事が来るのを待つ。返事がなくて何回か送ったものには未だ既読がつかない。丁度いいから足を上げてストレッチ。隙間時間やながらでやるといいってネットに書いてあるけど、いっつも忘れてやらないからやり方も適当。

 ……何やってるんだろう。自分の行動もだけど、ライはこの時間バイト終わってるはずなのに。さっきまで返信だってあったし、なんで突然ガン無視されてんの?


 手持ち無沙汰にお茶でも取りに台所へ。リビングのテレビがついていたから、視線を向けるとクイズ番組が入っていた。



「これ、確かに小学生の問題なのにパッと出てこないもんだよね」

「ねーちゃん、もうすぐ受験なのに。俺はまだ中1だから、ねーちゃんでもわかんないなら仕方ないな」

「何いってんの。去年まで小学生だったんだから、シンの方が覚えてないとヤバくない?」

「短大落ちても知らないから」

「推薦もらってるから多分大丈夫。心配無用で〜す」



 弟のシンはコーラ片手にポテチを食べていた。いいなぁ〜。ダイエットも兼ねて「歯磨き後は水とお茶以外取らない」って決めてご飯の後すぐ歯磨きしてるのに、ポテチの誘惑が強すぎる。

 「ねーちゃんもたべる?」なんて言葉は、優しさなんかではなく悪魔の囁きだ。だってシンの顔がニヤついている。可愛い。

 見た目も含めて素直で可愛い我が弟は、声変わりしたあたりから少しだけ私をからかうようになった。声変わりしたあともあまり声は低くならず、身長も伸びてきて160センチある私と同じくらいになったのだが、姉妹に間違えられることもあるくらい可愛いのは間違いない。

 それでも姉弟ながら、どんな表情でも可愛いと思うのはブラコンだと言われてしまうのだろうか。いや、仲が悪いよりは絶対いいはず。



「ポテチは悪くない。可愛いシンが勧めてきたのも悪くない。ダイエットだって、たまには息抜きも必要だから食べるだけ」

「あれっ、ここに座んの?皿に分けて部屋持っていってもいいのに」

「いやいや、ちょっとポテチを食べながらでいいから私の話を聞かないかな?」

「面倒くさそう」

「面倒くさくないよ〜」



 そう言って、さっきライにした相談を弟にする私。

 話を進めていくほどシンの顔が呆れに変わる。まさか5つ下の弟が私の話を聞いてこんな表情になるとは思わなかった。



「毎日朝も昼も夜も連絡くるの。特に夜なんて『○時に電話するね〜』とかまで来てさ、私はあんたの彼女じゃないんだって」

「ふ〜ん」

「だからライに相談してるのに返事が来ないの。最初は返事くれてたのに、もう15分位放置されてるってなに?私の相談より大事な何かがあるってこと?」



 一旦コーラを飲んでため息をつくシン。そんなに呆れなくてもいいじゃん。本気で悩んでるのに。

 ちょっと不貞腐れた私を見て、シンは「う〜ん」と顎に手を当てる。その仕草は無意識ながら頭を使ってますアピールなんだろうけど、あざと可愛いくて良い。



「ねーちゃんさ、それゲームの男について悩んでんの?それとも返事をくれないライさんに苛ついてんの?」

「え?……どっちもだけど?」

「でも、最後に俺に聞いてきたのは『ライさんが返事をくれない理由』だよね?」



 ……確かに今、頭を悩ませてるのはライからの返事がないことだけど、きっかけはゲームの男だ。 

 そっちが解決しないと不安は解消されない。そのためにライからの返事を待っているのだ。なのに返事が来ないから更に不安が膨らんだわけで……。



「ライに相談なんかしたから、更に不安が大きくなったんだわ。シンに話聞いてもらって、頭の中が整理されて気づいた」

「えぇ〜!ねーちゃんその結論はヤバい。ダメ。俺が怒られる」

「誰に怒られるのよ。大丈夫、ライの返事がなくても相手の男にはキッパリ『今後連絡しないでください』って送るから」

「いやいや、同じクランなんでしょ?もめたらゲーム続けるの困るんじゃない?ライさんから返事くるのもう少し待ってみたら?」

「別に困んないわよ。いや、流石に私だって柔らか〜い言葉選んで送るって。最悪、他にやってるゲームもあるからそっちメインに変えてもいいし」

「……ねーちゃんがいいならゲームの方はいいけどさ。ライさんから返事がなかったからってライさんを責めないであげてね?不安が大きくなったとか言うのもやめてあげてね?」



 呆れ顔から焦った顔に変わったシンは、最終的に「うわ、これ知られたら怒られる」と半泣き状態になった。その顔も可愛い。さすが我が弟。

 大丈夫、シンは何も悪くない。ライがそんなことでシンを怒るようなら私が強く注意してやろう。



「ライについては返事来ても放置するわ!とりあえず相手の男とケリつけるから部屋戻るね〜」

「うわぁ〜!放置はやめてあげて!俺のせいでなんかおかしなことになっちゃった?!」

「大丈夫だって!ライからシンになにか言ってくるようなら私に言いな。年下いじめんなって怒っちゃる!」



 「そういうことじゃないんだよ〜」と、ほぼ泣いてる状態のシンをリビングに残し部屋に戻る。可愛い弟は表情豊かなのだが、私が写真に残そうとすると怒るので、心のアルバムに残すにとどめている。


 そろそろお母さんがお風呂から出てくるだろうし、慰めるだろう。しかも、何故かお母さんが撮った写真に対しては怒らないのだ。

 小さい頃から「母さんと父さんは二人が家を出たあとの記念がほしいの」なんて言っていたから優しいシンは断れないのだろう。でもそのデータは家族共有のアルバムに入っているので、家族ならいつでも見れる。そのことに気づいていないところも、我が弟は可愛いのだ。





 ◇ ◆ ◇ ◆





 ヤバいヤバいヤバいヤバい!これがバレたらマジでヤバい!!

 ねーちゃんの相談を聞いたあと、母さんに慰められて落ち着いた俺は、ポテチを片付けてコーラを足してから自分の部屋に移った。

 母親に慰められるとか中1で子どもっぽいとか言われるかもしれないけど、落ち着けるならきっかけはなんだっていいと俺は思ってる。あと何年かしたら流石にしないだろうし。

 そんなことより、今のことがバレたらヤバい。誰にってそんなの決まってる。幼馴染のフウさんだ。


 歳は俺だけ少し離れているが「4人は幼馴染」という風にお互いの親が話していたので幼馴染だ。

 そんなフウさんと俺は1年くらい前から、毎日のように連絡を取り合っている。何故かというとフウさんから「ライ兄はミコ姉に片思い中だから、情報がほしい」と言われたからだ。


 ……こんなこと言ってはダメだろうけど、フウさんは男心がわかっていない。妹から好きな人の情報をもらうなんて、俺だったら耐えられない。

 好きな人がバレていることもそうだし、思春期真っ只中で兄妹でそんな会話をするなんてことも恥ずかしい。



「どうしよう。いや、このことを伝えなければいいのかな?でも、ライさんとフウさんでねーちゃんの話題になったときに今のことは絶対出るだろ。」



 落ち着かない俺は、声に出しながらフウさんに伝えるべきかどうかでスマホをただ見つめていた。

 ため息が出るタイミングで着信が入る。相手は……フウさんだ!このタイミングでの着信に恐怖を感じる。まさか、盗聴器でも仕込まれてるのか?



「……もしもし、何かありました?」

「シン君、何かありましたかじゃないよ〜!お母さんから『シン君がミコちゃんと話したあとに泣いてた』って聞いたから電話したんだよ〜」



 ……情報源は母さんだった。盗聴器の心配がなくてホッとしたが、なんで母さんが俺が泣いたくらいでフウさんに連絡をするんだ?

 もしかして、ライさんは妹のフウさんだけではなく、母さんともねーちゃんのことについて相談をしているのか?そうだとしたら、ライさんと俺ではちょっと考え方が違うのかもしれない。

 「男心」と一括にしてはいけなかったんだな。



「それで、泣いた理由は何だったの?」

「いえっ…その〜、何から話せばいいのか」

「全部話せばいいんだよ〜。……ほら、シン君。ミコ姉に何を言われたの?」



 もはや尋問だ。優しい口調で有無を言わせない圧をかけてくるフウさんに、すべてを話してしまった。

 そういえば前に、母親同士の雑談の中で「ライとフウって名前は、風神雷神から取った」なんて話を聞いた覚えがあったな。名は体を表すと言う言葉が頭をよぎる。ゾワゾワと寒気がした。あんな恐ろしい風貌の神様の名前を女の子に付けないでくれ。



「なるほどね〜。それでシン君は『自分のせいで二人の仲がこじれちゃう』って思って泣いちゃったんだ」

「……まあ、そう思ったのは確かです」

「でも大丈夫!シン君が心配するようなことはないよ!ライ兄さっに帰ってきたんだけど、まだミコ姉に連絡してないっぽい」

「連絡してないだけなら、動いてないだけじゃないですか?本当に大丈夫なんですか?」

「大丈夫、大丈夫!一旦電話切ってライ兄のとこいって状況確認してくるから!」

「待ってください!そんなことしたらライさんショック受けるんじゃ…」

「大丈夫だって〜!んじゃ一旦切るね〜」



 最後までフウさんの圧に飲み込まれてしまった気がする。連絡を取り始めた1年前からそうだ。


 俺が中学に上がるからと、小学生卒業前に両親から買ってもらったスマホ。それまでは家族共有のタブレットしかなかったのに、自分が自由に使えるスマホを手に入れた俺は家族の次に友達の連絡先を入れようと思っていた。

 そんなときに、ねーちゃんが「ライとフウも入れてあげたら?」と言ってきたのだ。


 実際、高校生と小学生では話題も合わなくて俺だけ3人とは少し距離の出ていた時期で、そのまま疎遠になるよりはと思って了承した。

 そしたら、ライさんは一言「宜しく」って送られてきただけだった。そんなもんだよなと思いつつ、俺もスタンプで返事をしたのだが、フウさんからは直接電話がかかってきたのだ。

 最初は「久しぶり〜」という感じだったのが、いつの間にかライさんの片思いの話になっていて、最終的には「ライ兄のためにもお願い!」と。

 断れなかった俺はその日からスパイのごとく、ねーちゃんの情報を渡している。勿論、ある程度ヤバそうなことは伝えていないが、俺の中でそうでもないと思った内容のことはフウさんにバレるようで問い詰められて話してしまうことが多い。


 それだけではなく、お願いごとにも弱い自覚がある。最近フウさんととある写真を撮るために打ち合わせをしているが、本音は撮りたくない。

 写真自体は撮られることにそこまで抵抗はないが、相手による。これは俺だけではないと思うが、相手だけではなくその時の状況だって大事だ。

 なのに今度、フウさんの指定した場所で指定されたものを着て写真を取る約束をしてしまったのだ。相手がフウさんだから最終的に受けたのだが、出来ることなら今からでも断りたい。




「フウさんは将来、刑事か弁護士になったらいいと思う」



 今の俺にはそれしか言葉が出ない。ライさんの本心もわからないし、ねーちゃんの情報を渡している罪悪案も多少ある。

 確かに歳が離れているから強く言えないこともあるだろうけど、フウさんのあの圧はかなりのものだろう。中学生の俺には太刀打ちできない。


 よし、あまり深く考えないようにゲームしてから寝よう。あとは高校生3人でどうにでもしてくれ。

 




 ◇ ◆ ◇ ◆





 今日はお父さんがもう帰ってきているので、さっき玄関が開いたのはライ兄が帰ってきたからで間違いない。

 リビングを見ると案の定、ライ兄が夜ご飯を食べていた。コートもカバンも部屋に置いてきたようで、テレビを見ながら箸を動かしている。



「ライ兄おかえり〜!お土産はありますか〜?」

「なんでバイト行っただけでお前に何か買ってこないといけないんだよ」

「あら、さっき肉まんのゴミ捨ててからコンビニ寄ったんじゃないの?確かフウが好きなアニメがコンビニとコラボしてるって話してなかった?」

「え!マジでお土産あるの?!」

「……母さん、こいつに今それ言うと持ってこいって言われるじゃん」



 「あら、ごめんなさいね」と言いながら、お母さんは洗濯物を干しに行った。うちは共働きだから夜に家事をすることが多いし、基本的に自分のことは自分でする家庭だ。

 2人になったのでお土産のことも気になるが、さっきシン君と話していたことを聞くことにする。



「そういえばさ、ミコ姉と最近連絡取った?」

「まあ、取ってないわけじゃないけど」

「そうなの?なんかシン君から『連絡なくて不安みたい』って連絡入ったから気になって」

「シンから?それで泣いたってことか。そういうことなら食べ終わってからミコに連絡するか」

「ライ兄もなんだかんだ言ってシン君には激甘だよね。もしかして未だに初恋引きずってたり?」

「ねーよ。どんなに綺麗な顔してても男はねーわ」

「似た顔つきなのにミコ姉には冷たいよね」

「ブラコンはもっと無いだろ」



 そう言うとライ兄は、ちょうどご飯を食べ終わったようで食器を片付け始めた。私は横で飲み物を2人分用意したのだが、それを見て「俺の部屋に置いてあるから」と一言。

 さっきのお土産の話だろうけど、その他にももう1つライ兄の部屋に行かなくてはいけない理由がある。


 2人で「部屋に戻るね」と声をかけると「おやすみ〜」と返事があったので、そのままライ兄の部屋に入る。



「まずはこれ。このキャラでいいんだよな?」

「そうそう!あ〜、やっぱこれ、マジでシン君に似てない!?」

「……否定はしない」



 ライ兄からのお土産は、私が今ハマっているアニメキャラのアクリルスタンドだ。他にもファイルやお菓子とかもあったが、他のキャラも載っていたりするのでソロで販売してるアクスタが1番の目当てだった。

 しかも今の会話でわかるかもしれないが、これがシン君にソックリなキャラクターで……しかも男の娘キャラだったりする。本人には言えないけど。


 そう。私は幼馴染であるシン君のファンである。恋愛感情はない、純粋なファンだ。


 彼は本当にヤバい。私達兄妹が小学校の時にここに引っ越してきたとに、たまたま公園で会ったのがきっかけだった。

 その時、まだ3歳だったシン君はミコ姉の後ろを必死について回っていた。その姿はマジで天使が舞い降りたと思った。ミコ姉も可愛いのだが、シン君は存在全てが天使だった。

 実際、天使に性別はないのか、私だけでなくライ兄も初恋はシン君だ。おそらくご近所さんやシン君のクラスメイトだって。多くの人の初恋を奪っていったのだろう。

 

 女心をくすぐるというか、母性本能とでも言うのだろうか。男相手にだってクリティカルヒットさせるであろう存在であるシン君は、天使だという自覚がない。

 純粋すぎるがゆえに、相手を疑わないのだ。それを利用して近づく輩もいたが、そういう輩はミコ姉と私で排除してきた。

 1年前、スマホを手にした天使には「連絡先交換する相手は信頼のおける人にするように」と、ご両親から話もあったようだが、そうは言っても害虫はどこにでもいる。

 天使の家族と私、ライ兄がまず連絡先を交換し、できるだけ毎日連絡を取って天使に何もないか確認している。お互いの家族みんなが入っている「天使保護」というグループまで作ってやり取りしているのだ。あ、もちろん天使本人は入っていない。

 ……私は個人的に頻繁に連絡が取れるよう、ライ兄がミコ姉に片思いしていると言うことにして毎日やり取りをしている。本当に集めたい情報が、ミコ姉ではなく天使本人のことだなんて思っていないだろう。天使を守るための嘘だ。仕方ない。


 そう天使に言っていることをライ兄とミコ姉には教えていないが、今のところバレていない。天使本人にももちろん気付かれていない。そうゆう素直なところも愛おしい。



「それにしても、ライ兄はゲームに課金するためにバイトしてるはずなのに、なんだかんだで私にお土産買ってくれるよね?もしかして、ブラコンならぬシスコンなの?」

「それはありえないな。ミコとシンの顔に見慣れてる俺が、なぜわざわざ可もなく不可もない妹を大切にしないといけないんだよ」

「うっわ、その言い方!確かにあの姉弟と比べたら私なんて平凡どころか下の上とかなんだろうけど、少し位可愛いところもあるってフォローしてくれてもいいじゃん。でも、なんで天使に似てるミコ姉は天使と同じように見えないんだろう?」

「……さあ?でもよく言うだろ?『女はめんどくさい』とか『男は単純』だとか。そういう、元々の性別が性格面とかに関係してたりすんじゃね?」



 ……よく聞くフレーズではある。でも近年、性別でどうこう言うのは差別になるので大きな声では言えない。

 でも「うわぁ〜、それは偏見だっ!」て言い切れないような内容だ。勿論、男だからとか女だからと決めつけることや、全員がそうだって言っているわけじゃない。

 小学校高学年から中学生くらいの頃、クラスの男子に「男子は楽そうだなぁ」なんて思ってた。それに対して女子はグループ作ったりとか、持ち物から服装まで気にしてたりとか色々めんどくさかった。


 

「ライ兄。やっぱり彼女ができないのって、初恋が天使だったから?」

「……まあ、はっきり言うとシンは性格も見た目も滅茶苦茶タイプだよ。でも、男って時点でダメ。しかもそのレベルの女が現実にいないから、俺には彼女ができねーの」

「うわっ、自分の顔見ての発言?私と同じく平凡なライ兄が天使レベルの彼女求めても無謀というか、もしもそんな人がいたとして相手にされないでしょ」

「わかってるよ。だからゲームにお金も時間も使ってんだよ」



 ライ兄がオタクになった理由が判明した。まあ、きっかけが天使なら仕方ない。こうやって今までも多くの人の心を奪っていっていることを、天使はわかっていないんだ。


 実は、そんな天使にコスプレをさせる計画を立てている。勿論、キャラは今の最押しであるこのアクキーの男の娘だ。その写真を見せたときのライ兄の反応が楽しみで仕方ない。

 このアニメは結構人気があってゲームにもなっているし、人気のスマホゲーともコラボしているのを知っている。それどころか、ライ兄がやってるゲームと今コラボしているのがそのアニメだ。

 だからレイヤーさんも沢山いるが、ほぼ女性がやっている。男性もいるにはいるが、骨格がやはりアニメキャラというのもあって違和感がある人が多い。

 そんな中、現役中学生の天使がそのキャラのコスプレをしたのなら?いや、絶対にバレないようにするし、なんなら「ミコ姉でした〜」ということにしてもいいと思う。……うん、それはかなりいいアイデアな気がしてきた。


 そのタイミングで、ミコ姉から「勘違い男を切ったった!シンをいじめてた場合、ライもついでに切ったるわ!」とコメントが入ったのでコスプレの話をする。速攻でOKのスタンプと「ライもたまには二次元から出さないとね!」と返事が来た。

 



 1人で計画していたドッキリに、仲間ができたことであーでもないこーでもないと話し合いすること数週間。撮影場所にもこだわって、加工なしで完成度神レベルのコスプレ姿をしてみせた天使は、ライ兄の興味を三次元に持たせることに成功した。

 しかし、それがきっかけで本当にライ兄がミコ姉に片思いを始めるとは思わなかった。天使についた嘘が本当になってしまったのだが、まあいいかと今日も天使を愛でる私なのだ。

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