第2章3話 何でも屋2
「確かに俺には2億円払える経済力はない、だから働くってことで進めてもらってもかまわない。」
この一言を発した瞬間、望はとてつもない後悔の念に飲まれた。強がってなにも考えずにしゃべってしまうのは昔からだか、こんな大事な時にもやってしまった自分の浅はかさにとても驚いた。
社長は不気味な笑顔を浮かべてそりのこしの髭が生えている顎に手をあてて話しかけてきた。
「ほう、今まで契約書すら読めない奴らはほとんどどうにか逃れようと交渉してきたり走って逃げたりしようする奴らが大半だったがどうやらお前は違うようだ」
「もっとも、そんなことをやろうが何をしようが、契約してしまった以上、働いてもらうとかで会社の利益になってもらうのは確定してるがなぁ―――なんなら逃げなかった以上、『俺から』のお前の評価は高いぜ」
男の茶色の瞳が怪しく光ったような気がした。というか望の中ではあの浅はかな解答が一番正しかった説まで浮上してきている。
社長は悪い笑顔を浮かべながら、席を立ち依頼室から出ようとしたが、ふと何かを思いだしたかのように止まり、こちらに顔を向けた。
「なあ、お前の能力のこと聞いてなかったよな?お前の能力のこと、少しでもいいから教えてくれないか?」
一番聞かれたくない質問をされてしまった。だかこの組織の一員になる上で嘘をつくメリットはないと思い、真実を伝えることにした。
「僕の――能力は血流操作です」
「ほう、それは素晴らしい」
社長は上機嫌になってニコニコは顔になった。おそらくいい手駒を見つけられたと思ったからだろう。しかし、自分の力の欠点を付け足した。
「でも、操作できるのは自分の血だけで、さらにそれをしたら血管とかが破裂してずっと使ってたら動けなくなります」
上機嫌だった社長は広角を落とし、不機嫌になった。無理もないだろう血流操作なんていう相手を簡単に殺せる力だと思っていたら自分の血液しか操作できない上に自滅効果までついていたんだ、それでも上機嫌でいられる方がおかしいだろう。
「ほう、その力、何の意味がある?」
「血流操作をしているときは身体能力が上がります」
「だが使いすぎると動けなくなるんだろう?ちょっと訳が分からねぇ」
と吐き捨て、社長は依頼室から出て行ってしまった。この後どうしていいのか分からず、依頼室で待っつことにした。待つこと約10分、13と書かれたジャージを着たひ弱そうな少年か来て、優しい笑みを浮かべた。
「えっと、あなたは私と同じ13番に所属することが決定しました。明日から仕事とかの説明をするので今日は会社の寮に案内します」
「えっと、13番?って何ですか?」
「あぁ、その説明も明日しようと思っていたんですが、まぁ、簡単に言うと落ちこぼれの戦闘集団みたいな感じです」
「ははっ、落ちこぼれ集団か、まあ何の取り柄もない自分に一番あってるかもなぁ」
自嘲気味に大きな独り言を吐いた。そう話した直後のひ弱そうな少年の視線にはなにやら嫌悪感が含まれている気がした。
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気弱そうな少年につれられ、本社の巨大なビルを出て、1キロほど歩いた所に周りのビルと比べると少し小さいビル、というかマンションについた。気弱そうな少年は指を差した。
「あなたに今日から住んでもらうのはここです。ここの1306号室。何の偶然か私の隣の部屋で」
「へぇ、結構いいマンションなんだな、詐欺まがいなことやってるから住むとことか刑務所みたいな所かと思ったわ」
「―――――――刑務所的なのも考えたっぽいですけどでも働くからには士気が高まる方が良いと考えたらしく、めちゃくちゃ値段が高くて住みやすいマンションを買ったとか社長が言ってた気がします」
確かに利に叶ってはいる――――のか?会社からしても刑務所みたいなとこに住ませて利益が減るよりも少し高いが士気が上がって会社の利益に繋がる方が得ではある気がする。
気弱そうな少年に案内されて1306号室に案内された。中身はかなり広く、とても綺麗だった。
気弱そうな少年は何かメモを取り出してそれを読み上げた。
「えっと、トイレとキッチンとシャワーは自由に使ってくれて良いです。でも働きはじめて1年以内はガスコンロは使用禁止みたいな感じで、5階以上の住民は共用の風呂も使用禁止です。」
共用風呂が嫌いな自分にとっては風呂はどうでも良いが、コンロ禁止は困る。
「なんでガスコンロ禁止何ですか?」
疑問に思ったことがとっさに口に出てしまった。この悪い癖は無くそうと思いながらも無くせない気がする。
「なんでも、1年も働いてないような奴にコンロ使われて火事を起こされるとイヤだからみたいです」
なんてつまらない理由なんだろう。さっきの社長からはそんなめんどくさがりオーラは感じなかったが。
「まぁ良いやこの部屋にあるものならコンロ以外はなんでも使って良いんだろ?」
「はい、大丈夫です、私は隣の1305号室に住んでいますので分からないことがあれば気軽に来てください。明日は朝8時に迎えに来ます。」
と気弱そうな少年は1306号室から出て行こうとした。ふと少年の腕を掴み、聞きたかったことを聞いた。
「なぁ、お前の名前、聞いてなかったよな?」
腕を掴まれて足を止められた少年は一瞬、驚いたような顔をしたが、すぐに微笑んだ。
「僕の名前は琴瀬 晴樹です。あなたの名前も教えてもらっても良いですか?」
親指で自分の顔を指して笑顔を作りながら言った。
「俺の名前は愛川 望。よろしく」
少年…いや晴樹は差し出された右手に驚きつつも右手を握り返してきた。
「よろしくお願いします」
望にこの世界始めての友人ができた瞬間だった。