第2章2話 何でも屋
街に出てみたは良いが、疑問は膨らむばかりだ、もとの世界の自分の親は悲しんでいるのだろうか?もとの世界であの時に一緒にいた奴ら以外の友達はどんなことを思っているのだろうか?もとの世界の赤い目の殺人鬼はこちらの世界にもいるのだろうか?いたとしてあの時のあの場所に現れるのだろうか?と、ここまで考えたところで、あの教会でオースティンと名乗る青年が言っていた言葉を思い出した。
『もう、この世界には戻ってこれないけど、』
――――この言葉の意味することは、もとの世界の人とはもう2度と会えない、ということだ。
『やり直し』してみて初めてこの辛さの意味が分かった、あの青年はこの辛さを100回以上経験していると言うのか?こんな事実を目の当たりにし、ホントに頭がおかしくなりそうになった。
ふときずくと、もとの世界であの事件が起こった店に行くときに通ったような裏路地にいた。望はあんなことを考えながらも、歩を進めていた自分に驚いたが、自分の目の前にあった張り紙に気を取られてそれどころではなくなった。
何でも屋 依頼を受ければ何でもやります
その謳文句に目が釘付けになった。
何でも屋なら、いなくなった黒裂を探せるのだろうか?あの、赤い目の殺人鬼をさがしだせるのだろうか?――――もとの世界に戻ることができる術をさがしだすことが出きるのだろうか?
いや、多分もとの世界に戻るというのは無理だ、そんな方法があるなら、何回も『やり直し』しているあの青年が『もう、この世界には戻ってこれないけど、』なんて言うはずがない、というかもとの世界なんて言ったところで、頭がおかしくなったと思われるのが関の山だ。
そんな現実的ではないことではなく、黒裂と赤い目の殺人鬼を探す、ということは何でも屋ならやってくれるかも知れないと考え、もとの世界に戻る願いを一時的にも忘れるために黒裂と殺人鬼を探すことを心に刻み、望は張り紙の下に書いてあった住所を目指して歩きだした。
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張り紙の下に書いてあった住所の場所に行くと、高層ビルが立ち並ぶビル街の一角のビルだった、住所を見た段階でビル街だと言うことは分かっていたが、『何でも屋』は、その中でも特に大きく、周りのビルの1.5倍くらいの大きさで、群を抜いて高かった。
望はそのビルの前まで来たは良いが、高すぎるビルにひよってビルの前で立ちすくんでいた。そんな望に、長髪で、あの殺人鬼を彷彿とさせる赤い目を持ち、着ている服に巨大な1が書かれている女の人が話し掛けてきた。
「あ~、お客さんですか?このビル高いから入るの怖いですよねぇ~でも大丈夫ですよ?ここの社長はお客さんには優しいですからねぇ~」
と、長髪の女の人は、さあさあといって望の背中を押してビルの中に入れ、少し大きめのテーブルと、そのテーブルを挟んで向かい合っている椅子が2つおいてある依頼室というところに押し込んで、
「ちょっと待っててくださいね~今社長を呼んで来ます~」
といい、どこかへ行ってしまった。――――こんなに大きな会社なのに1人の客の対応を社長がするのだろうか?という疑問を望はもったが、客には優しいとか言っていたので、客を大事にする経営をしているのかもしれないと、良く分からない理論で納得することにした。
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10分ほど待つと、緑色に髪を染めた、安物のTシャツを着て、首輪を着けた男が入ってきた。男の服には特徴的な4という文字が刻まれていた。男は、大量の書類をテーブルに置きながら、その書類のひとつを取り出して、一部を指差しながら。
「この書類全部に目を通して、納得できたらここにして欲しいことと、あなたの名前を書いて、待っていてください」
といい、どこかへ行ってしまった。
残された望は大量の書類を見て、戸惑っていた。もともと頭が良くないし、文字を見るだけで吐き気さえするのに、これを全部読まないといけないという事実が望を襲い、読まずにサイン済ませてしまおうという心と、読んでからちゃんとサインをしようという心が葛藤しあったが、文字に対する拒絶反応が勝ってしまった。
して欲しいことの欄にはさすがにもとの世界に戻りたいということは書けないので、黒裂と、赤い目の殺人鬼を探すと言うことを書いて、自分の名前の欄には愛川望と書いた。
書いてから30分くらいたって、何かを手に抱えた緑色の髪の男が戻ってきて、
「もう書き終わったんですか、」
といい、望が書いた書類をとり、
「ふむ、人2名の捜索ですか、なら2億円か、うちで最高50年ほど働くかのどちらかですが、どちらにしますか?」
―――――は?2億円?ニオクエン?何でそんな話しになるんだ?捜索がどうとか言っていたってことはもしかしてあの書類にそんなことが書いていたのか?
そんな望の考えが顔に出ていたのか、緑髪の男は、ため息をつきながら、
「その反応は書類を読んでいませんね、しかしサインをした時点で契約は成立しているので、もう覆しようはないです、そんな反応をする大体のお客様は経済力がない方なので、統計的にみて、働くということで準備を進めた方が良いですね?」
こんなことになるとは思わなかったが、望の考えが浅いことに原因がある、自分が悪いのに相手に噛みついたら余計状況が悪くなることはなんとなく分かる。
「確かに俺には2億円払える経済力はない、だから働くってことで進めてもらってもかまわない。」
このひとことをきっかけに、望は全く知らない世界で働くことが決定してまった。