第1章3話 救いの教会
あの、大量殺人が行われていた現場から1センチでも遠くに逃げるために赤い足跡を残しながら走り続ける。
あの、人の命をなんとも思っていなさそうな赤い目の持ち主から少しでも離れるために走り続ける。
10分前には普通に会話をしていたが、今はもう動かない肉塊となってしまったクラスメイトの姿を、思い出さないように何も考えないようにして、走る。
振り返らずにに、走り続けた。
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走り続けていると、望の視界に明るい日が差し込んできた。少し足を止め、望は少し考える。 あの店に居たときはかなり暗くなり始めていたはずだが、望は一晩中走り続けていたのだろうか?
そんなことを考えていると、望が立っている歩道の隣にこぢんまりとした教会が立っていた。
その教会は確かにこぢんまりとはしているが、朝の日差しに包まれ、望の目には凄く神秘的に見えた。 教会の隣には看板が立っており、 悩み、相談聞きます←無料 と、お世辞にも綺麗とは言えない文字で書かれていた。
「今の俺のためにあるような教会じゃん」
と、あの事件を思い返しながら自分自身の勇気を出すためにそう口に出し、望は教会の中に入っていった。
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教会の中に入ると、外から見た印象よりも広く、窓についているステンドグラスが外からの光を美しく彩っていた。
望がその光景に気を引かれていると、
「あれ?あなたは誰?この時間はここ、開いてないはずなんだけど?」
と、横から声をかけられた。
声がする方を見ると、短髪の元気がありあまっていそうな女の人が立っていた。
「ああ、すいません、勝手に入って、看板に悩み相談聞きますって書いてあったので」
「なるほど、そういうことか、だから入って来れたのか、」
そんなことを言いながら女の人は移動し、教会の前の方?の椅子に近づき、その椅子を軽く叩きながら
「ここに座ってちょっと待ってて」
というと、教会の奥の方に消えていった。
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10分くらいその椅子に座って待っていると、教会の入り口が開き、何かが入っていてパンパンになっているビニール袋を持ちながら、息を切らせた金髪で青色の目をした青年が入ってきて、望に
「君が悩みを抱えてる少年ってことで良いのかい?」
と、訪ねてきた。
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青年は答えを聞かずに教会の奥に走っていったが、直ぐに戻ってきた。その時手ぶらだったのでビニール袋をおいてきたのだろう。
「で?君がその少年ってことで良いのかい?」
「はい、多分、」
「――?多分?フォーシーから何も聞いていないのか?」
「フォーシー?」
と、疑問に思ったことを口に出すと、
「―――あいつ、何も説明してないのか、自分の名前すら言ってないなんて…」
「えっと、フォーシーってさっきの女の人の名前ですか?」
「ああ、そうだよちなみに僕の名前はオースティン、――――あいつから何も聞いていないということはまずはここの説明からした方がいいね?」
「はい、」
というと、オースティンと名乗った青年は望の隣に座り、
「ここは普通の教会としての役割もあるけど、教会の前の看板にある通り悩みとかも聞いてたりするんだ、これは普通の教会の懺悔とかとは少し違って、解決に協力することもする。僕の能力は少し特殊でね、覆しようのない後悔にも抗う術を与えることもできる」
そういった青年は自分の左手を見てから望を見て、
「君はどんな悩みを抱えているんだい?」
「俺の悩みは、―――――――――――――――」
昨日の店で大量に人が殺されていたこと、友達がそれに巻き込まれて殺されていたこと、その殺人犯にみつかったが、見逃されたことをオースティンに話した、その時オースティンは親身になって聞いてくれていたが、あの事件を思い返すと自分の弱さと、運の悪さ、殺人犯の瞳を思いだし怒りと恐怖で頭がおかしくなりそうで、大雑把にしか伝えられなかった。
「なるほど、それはかなり深刻だね?僕の能力はあまり使わないようにしているが、君には使った方がいいのかも」
「ところであんたの能力って?」
オースティンは左手を振りながら、
「『やり直し』をさせる能力ってところかな?」
「―――――やり直し?」
「そう、やり直し、時間を戻して自分の後悔をなくすことができる―――――かもしれない」
「かもしれない?」
「時間を戻したところで後悔を回避するかは結局その人次第だし、まず僕以外がちゃんと『やり直し』できているのかすらわからない」
「そんな力信用できるのか?」
「僕は100回以上使ったけど、今のところ全部『やり直し』できているよ」
オースティンは自分の力の証明は自分の体でしかしていないということだろうか?
「僕が他の人に使うときはその人は消えて、死ぬか、行方不明になったことに世界が改変されるんだ、でも僕が自分自身に使うときはやり直しできるからその人たちも多分できていると信じているよ」
「――――信じているって…」
「だから普段はあまり使わないようにしている。で、君はこの力を使ってどうしたい?」
どうせ母の電話がなければ失っていた命だ、このくらいのギャンブルならしてもいいと思う。
「俺は―――――やり直したい。」
オースティンは望の目をその青い目で睨みながら、
「ホントにいいんだね?」
「ああ、俺は、あの事件が起こった世界で生きれる気がしない」
「その人の『本質』は変わらないと思うけど、やり直した世界は人の名前とかは大体一緒だけど能力とか性格が全く別物になる人が多い、それでも大丈夫?」
「それでも、俺はやり直したい。」
「じゃあ注意事項ね、あっちの世界の俺は多分、こんな力は持ってないと思う、教会はやってると思うし頼めば力になってくれるとは思うけど、」
「―――――?」
「だから、何回もやり直せると思わない方がいいね、やり直せると思って行動すると隙ができて簡単にチャンスを逃す、これは僕の経験則だけど」
「ああ、分かった、気をつける、」
「もう、この世界には戻ってこれないけど、この世界でやり残したことはないか?」
「―――――ひとつだけ」
「―――――それはなんだい?」
「俺の母さんにこれまでありがとうって伝えててくれないか?」
オースティンは目をつぶり、ゆっくり開いて
「分かった、伝えとくよ」
と、オースティンが言うと、オースティンの左手が白い光を放ちだし、望を包み込んだ――――――
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少年を包み込んだ光が消えたあと、教会の奥からフォーシーがでてきて、
「あの男の子に力を使って良かったんですか?」
「使わなくて良いなら使わない方が良かった、だけど彼はこのまましていたら多分自殺とかしていた―――――」
「あぁ、『合計100年以上人を見てきた僕からすると』ってやつです?」
「良く分かったね、でも彼が自殺してたか、自暴自棄になって彼が巻き込まれた事件以上の事件を起こしていたのは間違いないと思う、多分」
と、言うとフォーシーの目にはオースティンの青い瞳がさらに蒼く、さらに深く、光るように見えた。フォーシーはオースティンは好きだか、オースティンのその悲しそうな目はあまり好きにはなれなかった、
フォーシーは静かになった雰囲気を書き換えるために、手を叩きながら、
「さぁ、あの男の子の足についていた血を掃除してから朝ご飯にしましょ、」
というと、オースティンはその目を驚いたように見開いたあと、少ししてから、微笑み、
「そうだね、ちなみに今日の朝ご飯はなんだい?」
「うーん、私料理できないからオースティンが作って」
と、2人はいつもの会話をしながら日常に戻っていった。
オースティン編はそのうちあげるつもりなので、気になる人は待っていてください。