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後悔の海

とある男の後悔の理由とは…?

クラフ視点。

五月六日 午前九時。


いつものように俺の従者である女性..フィーレ・ミルートが俺を起こしに自室へやって来ていた。


「早く起きてください主様、仕事が増えるので。」


「...わかった..わかったからそんな行儀悪い足はやめろ..少しは女性らしく..」


「あらこれは失礼主様、わたくしとしたことが..お忘れくださいな。」


従者である彼女を雇ったのは、自分の生活に余裕を持たせるためで。


別に雇う前に余裕がなかったというわけではなかったが、俺は彼女を雇わなければならない事件を過去に引き起こしてしまった。


それは、今から先上って三年前程の話だ。フィーレの前に俺は雇っていた従者がいた。


名前はスフレ・モノクローム。落ち着いた雰囲気を持った黒髪の長い女性だった。


彼女は俺の元友人の幼馴染で、友人から紹介してもらいスフレを..彼女を雇ったのだが。


その頃、まだ俺はその元友人以外には誰にも心が開けず、目付きの悪さと言語力の足りなさ、治せない癖のせいでずっと一人で暮らしていた。


どうせ雇ったこの彼女も、俺のことを信用することはない、そう思っていたのに。


彼女は、雇われて以来俺の心に親身に寄り添い始めてくれたのだ。


俺のことをいつも心配していて、滅多に笑わない俺が笑うと、彼女も同じように笑ってくれていた。


それを当たり前のように見て生活していく内に、気づいたら俺は自分でも思っている以上に彼女に依存していた。


愛している、というわけでもない。


恋人になりたい、とも違った。


俺の中にあった気持ちはただ一つ。


彼女を誰にも渡したくなかった。


彼女を自分だけの物にしたい。


そうならないなら、無理矢理触れてでも自分に依存させたい。


そんな感情を俺は抱いてしまったのだ。


そして結果俺は、自分より若い彼女に手を出してしまったのだ。


無理矢理嫌がる彼女の身体を抱きしめて、彼女が抵抗のあまり痙攣をおこすまで俺は自分の行いを止めることができなかった。


途中でハッとなり、俺が彼女を見ると彼女の顔は恐怖と苦しみで青ざめたような顔をしていた。


当たり前、だった。


男が許可なく女に覆い被さるだけで重罪だというのに。


その以上のことまで俺はしてしまった。


自分の感情を相手に理解させる方法を完全に間違えたとこれは誰にでもわかることだろう。


俺はすぐに謝ろうと思った。だがどんな言葉を並べようとも無駄だと思い言葉が出ず、黙りきったままその時は終わった。


それ以来、彼女は俺の顔を見る度に苦しそうな顔を浮かべ、笑うこともなくなってしまった。


あんなに幸せそうにしていた彼女を、俺が壊した。


俺が、人生で一番欲しいと思った人間は、俺のせいで人生が狂ったというのに。


俺は何事も無かったかのように過ごすという事しかできなかった。


けれど、そんなのも長くは続かず彼女の顔が日に日に青くなる上に、明らかに体調を崩していると気づいた俺は、苦渋の決断をとるしかなかった。


それは彼女を、自分の従者からやめさせること。


辞めさせなければ辛さが限界を迎え、このままだと彼女が死んでしまうだけではないかと言語力のない当時の俺でもその結論にたどり着き、彼女にそうさせた。


彼女が壊れた辛さに比べれば、これくらい俺は何ともないと思ったから。


そして自分の心に空いた穴を埋めるように、新しくフィーレを雇った..というわけだ。


採用した理由は特になかった。あるとすれば

雰囲気がスフレに似ていたから、可愛かったからくらい。


不採用にすれば相手が困るかもしれないとも考えていた。


そして新しい従者と過ごし始め少し経った頃、俺は彼女...スフレが自分の友人の従者になったということを風の噂で知った。


あの事件以来友人とは絶縁してしまい連絡すら取ることを許されなかったから噂でしか二人の情報は手にいれられなかったから。


俺は彼女の様子が気になり、こっそり一人で二人の住む屋敷に向かい、そこで見てしまった。


髪をばっさり切った、俺の命より大事な彼女の姿を。


女性らしかった彼女が、まるで男性のような素振りを見せながら生きているのを見て、俺は激しく後悔した。


俺があのときなにか言葉をかけれればよかったんだ。


たとえ歪んだ愛情でも、自分のもとにずっと置いておけばよかったのだと。


なのに俺は彼女を想いすぎて彼女を捨てた。


きっと彼女や友人からすれば、俺は最悪の人間になっていることだろう。


従者の心を壊し、友人の大切なものも壊した。


永遠に許されるわけがない事。


だけどもし叶うなら..。


俺は彼女に、スフレに触れたい、取り戻したい。


今度こそ、俺が彼女と居たい理由をきちんと彼女に伝えたい。


その為に、受け答えの練習相手にフィーレを雇ったようなものなのだから。



それからしばらくし、街で出くわし二人に会うという場は奇跡的に設けられたが、俺を見て青ざめ今にも吐きそうな顔をしている彼女を見て、俺は彼女を取り戻したいがために再び言葉選びを間違え、元友人と喧嘩し、辛そうな彼女を見ていられず言葉を吐き捨てその場から逃げることしか出来なかった。


なにもできなかった俺の心の中はずっと後悔の渦が回り続けていた。


それはまるで、深い海の中から永久に出られない..いや出たくないと逃げる俺を表しているようだった。

今回は設定にも登場するスフレの元主、クラフ・カーディの視点で書いてみました。


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