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風邪をひかれた日

次に風邪をひいたのは…?


従者視点。

三月二十七日午前八時。

私はいつものように中々起きない主を起こすため、彼女の部屋の扉の前に来ていた。


「主、朝ですよ。起きてください…反応がないな…入りますよ主。」


扉をノックしながら私は主を扉越しに呼んだが、反応がない。よほど寝入っているのか?


しかし起こさないわけには行かないので、私は扉をガチャっと開け彼女が眠るベッドへ近づく。


「おい、起きろフィナン…。フィナン…?」


「スフちゃ…ん。う~…う。」


彼女が私の声かけに弱々しい声をあげながら答えてきたので、嫌な予感が的中しないのを願いつつ私は寝転ぶ彼女の頬に触れた。


妙に温かい…というか熱い。


やはり熱がある。恐らく数日前私の看病をした際に風邪が感染ってしまったのだろう。


完全に私の責任だ…彼女は私と違って大きな仕事も抱えることがある人物だと言うのに…。


どうにか早く治させなければ。


「フィナン、病院へ行こう。難しいなら早く薬を…っ…!?」


私が彼女のために薬を用意しようとその場を離れようとすると、主が私の服の裾をぐいっとひっぱりながら弱々しい声で言葉をかけてきた。


「スフ、ちゃん…傍居て…。」


「でもそんな苦しいままじゃだめだ…だから休んでてほしい…フィナンがこうなったのは私の不注意のせい…なんだから。」


ベッドの前に跪き、彼女に裾を引っ張られながらそう言って俯いていると、その様子を見た彼女は私の方を見ながら微笑み続けて話しかけてくる。


「あの、ね、スフちゃん。ちゅー、してほしい、なぁ…そしたらちゃんと休む、よお。」


「…また私に感染って看病する羽目になるぞ…」


「う…ん、だから、こうやって、ねぇ。」


主はそう言うと、身体を動かし傍にあったマスクをつけると、私の顔を期待した目で見つめてくる。


どうしてそんなに弱って、熱で苦しいはずなのに薬より私からの口づけを彼女は求めて来るのだろうか。


彼女が私のことを大事にしていることも、理解していないわけではない。


だからこそ、混乱してしまう。


彼女の本当の気持ちが、心が…急に読めなくなってしまう自分がほんの少しだけ嫌いだ。


私がもっと彼女の事をちゃんと理解できていれば、風邪だってひかせなかった…看病だってさせなかったはずだから。


そんな彼女が今、そうされることを望むなら…。


…してあげたい。


私は頭の中でそう思った後、跪いたまま彼女の顔に自分の顔を近づけ、マスク越しに彼女の口に口づけをした。


キスをされた彼女の顔を見ると、彼女の顔が先程よりも少し赤くなっていた。


「これで…良い?」


「えへ…スフちゃん…やっぱりかっこいい…ね、好き…スフちゃん。」


「ほんと、あんたは私のこと好きだよな…。」


「だってスフちゃんは私の可愛い従者だし…それに…。」


「それに…?」


「なんでもない、えへへ。おやすみ、スフちゃん…。」


彼女は私の疑問に対してはぐらかすように答えると、私の服の裾を離した後、目を閉じて眠りにつき始めた。


気になる言い方をして逃げ寝するなんて、ほんと主は…彼女は意地悪な人間だと思う。


でも、その答えを気にする私も私で変なのかもしれないと私は思いながら、眠る彼女のおでこに軽く自分の唇をくっつけた後、看病の準備のためその場を離れることにした。


--------------------------- --------------------------- ---------


それから数時間後、主が目を覚ましたので作っておいたお粥を食べさせる。


「フィナン、これ食べな。」


私がお粥を傍のテーブルに置き、食べやすいようにと持ってきたスプーンを手渡すと、主はぷいっと私から顔を背けながら言葉を吐いてきた。


「…あーんが、いい。」


「…んな子供みたいなこと…ああもうわかったよ…ほら、あーん。」


そう言いながらむすっとした顔をする彼女の顔の前に掬ったお粥を近づけると、彼女は表情を変え私の近づけたお粥へ嬉しそうに口をつけていた。


ある程度お粥を食べた主は薬を飲むと、再びベッドに寝転びながら私の腕を掴みながら見つめてくる。


「スフ、ちゃん、えへへ。」


「…まったく、今日はいつにもまして我儘だなあんたは…。ほら、熱はかれ。」


「はぁーい。」


私が空いている手で彼女に体温計を渡すと、彼女は大人しくそれを受け取り熱をはかり始めた。


少ししてピピッと音がなったので彼女から体温計を貰い数字を確認する。


「うん、御飯食べれたおかげか少し下がったみたいだ…よかった…。」


「スフちゃんのおかげ、ありがとうスフちゃん。」


「なんでお礼なんて言うのさ…元はと言えばその風邪は私が…。」


「スフちゃんのせいじゃないわ、だからほらスフちゃん。」


彼女は私の言葉を遮るようにそう言うと、私の首の後ろに手を回しぎゅっと抱きついてきた。


一瞬だが彼女と私の顔がすごく近くなり、二人で見つめ合う時間が発生する。


そんな状態になぜか私は恥ずかしさを覚えてしまい、思わず彼女から顔をそらしてしまった。


彼女の顔が見れない、私は熱なんてないはずなのに彼女より顔が赤い。


…調子が狂う。


彼女が私に甘えてくることがこんなに恥ずかしくなるのは、きっと風邪のせいだ。


風邪を引いていない彼女に対して恥ずかしくなることなんてそうそうないはずだから。


私がそう考えながらそっぽを向き続けていると、彼女が私に抱きついたまま私の頬に口づけをしてきた。


そうしてくる彼女の口にはマスクはつけられていなかった。


「…っ?!ちょ、おまえマスク…!」


「だってスフちゃんそっぽ向いちゃうんだもん、だから無しでしちゃった。」


「私がまた風邪引いても知らないからな…。」


「…そのときはまた看病するわ、大好きなスフちゃんのことを。」


大好き、なんて今言われたらいろいろと勘違いしてしまいそうになるのに…この主は本当にずるい。


でも、嬉しい。


大事な幼馴染とこうして居られることが、今はいつもより嬉しい。


「…好きにしろ、クソ主。」




勝手に違う意味で勘違いして主にからかわれるのは嫌なので、今は大人しくそれを承諾しようと思った私なのであった。


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