表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/38

風邪をひいた日

風邪をひいてしまった従者 スフレのお話。

従者視点。

キス表現あり。

「はぁ..は..げほ..完全に油断した...クソ...。」


三月二十四日午前七時半。

いつもより重く感じる身体に違和感を感じ、体温計を使いはかった結果、私は熱を出していた。


普段は夜更かしすることなく寝ているのだが、最近は主の書いた小説の続きが気になってしまい、つい遅くまで本を読んでしまっていた。


ゆっくり休むべきなのかもしれないが..今日は屋敷の掃除が多い日だし、寝込んでるわけにはいかない。


私は重い身体を無理矢理起こし、いつもの服装に着替える。


そして主のいる部屋へ向かった。


部屋に着くと、主がクッションを抱えながら椅子に座っていた。


「スフちゃん、おはよう。」


「おはようございます、主。今日私は屋敷の掃除がありますので、またお昼頃にでもこちらの部屋に戻って参ります。では..。」


「...スフちゃん、待って。」


「....っ..!?」


適度に会話をし、部屋から立ち去ろうとする私の手を主はぐいっと引っ張ってきた。


「なんでしょうか..主..。私はやらなければいけないことがあるので今は構っている暇はないのですよ。」


「それは知ってるわ..ただ..。」


「ただ..?」


「...ううん、ごめんね。気のせいかもしれないから。お仕事頑張ってね、スフちゃん。」


「..かしこまりました、主。」


私は掴んでくる主の手を優しく離させた後、仕事をするための場所へ向かう。


そして棚から掃除用具を取り出し、掃除を開始する。


全ての場所をまとめて同じ日にする必要がない分、気は楽なので、私はひたすらに窓や床と格闘し続けた。


しかし暫くした頃、私の身に異変は起こった。


「...っう..あれ..視界が..クソ..。」


床を拭いている筈なのに、なぜかぼやけて上手く行えない。


恐らく朝から出ている熱が上がってきているのだろう。


だけど、こんな事で休んでなど居られない。


私がいなきゃ、この屋敷の主な仕事は回らないからだ。


揺らぐ視界と格闘しつつ、どうにか掃除を続けようとしたが、どんどん身体が重くなり、私の意識はそこで途切れた。



「...は..っ.....ここ、は..。」


少しして、意識を取り戻した私がいたのは床の上ではなく、ベッドの上だった。


そしてそのすぐ近くで、主がむすっとした顔をしながら私のことを見つめていた。



「やっぱり..朝の違和感は勘違いじゃなかったみたいね。スフちゃん。」


「主..なぜ私はここに..。」


「スフちゃんの様子がどうしても気になったから、仕事してる場所を見に行ったの。そしたらスフちゃんが倒れてるんだもん。だからここに連れてきて寝かせていたの。」


「す、すみません..主...余計な手を煩わせてしまって..すぐに仕事にもどりま....っ!?」


私がそう言いながらベッドから出ようとすると、主は私の事を抱き締めぎゅーっとしてきたのだ。


「あ、主...?なにを..。」


「今は休んでスフちゃん。熱があるのもわかっているのよ。貴女が寝てる間に勝手に計らせて貰ったし、薬も用意したの。」


「ですが...私は従者ですし..まだ仕事が..。」


「...敬語、今はやめて...スフちゃん。」


「..っ..フィナ..ン。」


抱き締め続ける主の力はいつもより強く、少し肩が震えていた。


私はそんな主を抱き締め返す。


「ごめんね、スフちゃん。やっぱり、貴方以外の従者も、本当は雇うべきなのよね。雇ってたら、こんなことにならなかったかもしれないのに。私、他人があまり好きじゃないの。だから信頼できる貴女だけしかこの屋敷には入れたくなくて..。だけどこんなの見たら..流石にそんなこと言ってられないわよね..。」


「フィナン..違っ..私が体調を崩したのは...っ...ぐ、す...。」


「..スフちゃん..?」


普段主が見せないような顔を見てしまった私は、頭の中で何かが不安定になったのか、思わず主の前で泣いてしまったのだ。


いつもなら抑えられるような感情が今はなぜか抑えられない。


きっとこれは…熱だ…熱のせいなんだ…。


…身体が、言うことを聞いてくれない。


「私は..大丈夫...だ..から..だから、フィナ..私の事..捨てな..いで..フィナ..ぁ。」


「..スフちゃん。」


「フィナ..わた、し..。」


「スフちゃん、こっち向いて..?」


「フィ...ナ..っ、んぅ..っ。」


主は不安定になってしまっている私を自分の方に向かせた後、優しく私にキスをしてきた。


抱き締められたままのキスだったため、身動きは取れなかったが、私の頭には抵抗するという選択肢は浮かんではいなかった。


「フィナ..ン..?」


「スフちゃん、大丈夫よ。私は貴女の主なの。たとえ貴女が嫌だって言ったって、私は貴女を捨てたりなんてしないわ。だって貴女は従者であると同時に、私の大切な幼なじみなの。たかが一回体調を崩しただけで、捨てるような関係じゃないのよ。」


「..ほん、と..?」


「うん、本当よ。だから今は..ゆっくり身体を治しなさい。無理して動こうとするなら、またちゅーしちゃうわよ、良いわね?」


主はそう言いながら抱き締めていた力を緩めた後、私をベッドに寝かせ、布団をかけてくれた。



「フィナ..傍..居て..。」


「大丈夫、傍にいるわ。誰も私と貴女の邪魔をする人なんていないのだから。可愛いスフちゃん..いいこね、よしよし。」


「フィナン..」


主に頭を撫でられた私は、身体のだるさと安心感が重なったせいか、すぐに眠りについてしまった。


数時間後、私は目を覚ました。


空は既に日が落ち始めており、綺麗な夕焼けの光が、優しく部屋を照らしていた。


「あ...おはよう、スフちゃん。」


「主....おはようございます。」


私が目を覚ますと、ちょうど主が部屋のドアを開け戻ってきた所だった。


主の持つおぼんには、飲み物とケーキが置かれている。


「ちょうど今飲み物とケーキを持ってきたの。スフちゃん、体調はどう?これ..食べれそうかしら?」


「...はい、おかげさまで朝方よりは幾分体調はましにはなりましたよ。食事も、軽いものならとれるかと思います。」


「そっか、それならよかったわ!ほら、スフちゃん、あーんして。」


「いや..主、自分で食べれますから..。」


「だーめ!こうやって食べるの!あと今日は主呼びと敬語禁止~!」


「..ある..っ..フィナン..恥ずかしいからそれは止めろって....んぐっ。」



私はしばし主から食べ物を食べさせられた後、薬を飲み、ベッドで大人しくすることにした。



「..ねえスフちゃん。」


「な、なんだよフィナン..。」


「結局スフちゃんが体調崩した理由ってなんだったの..?寝不足とか..?」


「それは..その..あんたの書く小説の続きが気になって..連日夜更かししただけで..。」


「ふふっ、なんだそっかあはは..!そんなにスフちゃんが続きを読みたいなら、私も頑張って書かなくちゃね。こんな近くにファンがいるんだもの。」


「精々そうしてくれ..ばかフィナン。」



主とこんな話をすることが出来るなんて、たまには体調を崩すことも、良いことなのかもしれないな。


この気持ちを知られたら、きっと頬を膨らませて怒られるだろうから、言うことはないけれど。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ