女神の思惑
「言っておくが、最初から真剣勝負なんて、挑んじゃいねえよ。
そっちは、たいそうな軍隊がいやがるんだ。
どう考えたって、俺が不利だろ? なあ、お嬢ちゃんよ?」
カイルが私のほうを見て問いかけます。
私は怯えを覚える一方で、システィーナを傷つけたカイルへの憎しみで、反発心を覚えますが、彼が一方的に不利な状況であることを、意識もしているのです。
この状況を作り出しているのは、今現在も微動だにせず、見ているだけのノエルのせいでもあるのでしょう。
彼女が本気になれば、システィーナと協力して、カイルを叩き潰すことができるでしょう。
そうなのです。 彼はああ見えても焦っていたようなのです。
しかし、だからといって、私にカイルを許すことはできませんでした。
それは端で見ていたノアも同様なようで、膝をつき、肩口痛々しい傷を見せる。システィーナを見て酷く憤っているようでした。
私は心配でした。 ノアが自分が戦うと言い出さないか。
その時、私はどうすればいいのでしょう?
高鳴る動悸早まることがなく、悪い予兆を象徴するように、広がっていきます。
いてもたってもいられず、システィーナの元へ駆け寄ります。
ここでカイル側って入れば私はシスティーナもろとも切られてしまうでしょう?
しかし、彼には彼の流儀があり、そこまで非道なことはしないように思えました。
「システィーナ、これ以上は無理です。 ここはノエルさん達に任せて一度撤収しましょう!?」
「いや、ここはオレがシスティーナを守る! 任せてくれないか、オレに……!」
ここで驚いたのは私以外のこの場にいた全員だったかもしれません。
カイルは歴連の雄志であることはこれまでの戦いから明白でした。
ここで、剣術の特訓をしているとはいえ、まだ子供のノアが、矢面煮立つなど自殺行為なのです。
「おやめなさい、あなたに何ができるというのですか?」
「やめて死にたいの――?」
システィーナと、私の声がかぶるように叫びをあげます。
はっきりといえば、ここにいたってノアなんかが出て行ったところでどうしようもないのです。
いい格好がしたいのでしょうか? システィーナの前だとほんとに馬鹿みたいです。
「大丈夫です。ノア、私はまだ戦えます! そこをお退きなさい!」
気丈に振る舞うシスティーナ、そんな態度がノアの虚勢を余計に奮い立たせるのは明確でした。
システィーナを―― ノアを―― 守れる力がほしい。
私は、このとき切にそう願ったのです。
正直に告白すれば、ここでノアを誰にも奪わせはしない!
そう心の中で叫ぶ私が確かにそこにいたのです。
「おいおい本気かよ、そっちの小僧が俺と戦おうってのか? ふん、面白くないね!
むざむざ、無関係なガキの命を取るほど、俺は腐ってねえ!」
そっちの女剣士が戦えないなら。次はあんた達の番ってことになるが!?」
そういうカイルの次な標的は再び、ノエル隊へと矛を変えます。ですが――
「勝負はまだ終わってはいません。 わたくしはまだ戦えます!
獲物を捕りなさい。 最後の勝負と行きましょう。
その思い上がった鼻っ柱、へし折ってあげます。 我が剣にかけて――!」
あくまでも気丈に振る舞うシスティーナ。 肩口から出血は収まっておらず、剣を杖にして立ち上がり、再び剣を構え直します」
ダメ、このままじゃ、システィーナがかノアのどちらかが死んじゃう!?
だからといって私が割って入ったところで何もできないのは明白でした。
ノアだってそうなのです。 そこら辺にいる雑兵奈良いざ知らず、歴戦の猛者相手に、私たち二人では荷が重いのも明白でした。
遙かに実力が上であるシスティーナがやっと、相打つレベルの相手なのです。
そのシスティーナも既に手負い。 私たちの不利は否めない状況でした。
ここは、ノエル隊に任せるのが、最もいい作戦といえました。
しかし、システィーナはおろか、ノアの臨戦態勢を崩しません。
ノアはシスティーナを心配しているのと、いいところを見せたいだとかそんな馬鹿な動機なのでしょうが、ここに至って普段は聡明なシスティーナが、敗北を認め徹底しないのは、不自然な気がしました。
確かに彼女はやや勝ち気なところもあるのですが、それ以上に聡明で自分にできなことをよくわかっていると思います。
ここは命を賭けてまで戦う場面ではないことも明白でしょう。
何が彼女を突き動かすというのでしょうか?
不安に彩られた、感情でシスティーナを見つめるうちに、あることに気づきました。
彼女の剣、女神――エリス様より与えられし、聖剣が、淡い光を放っているのです。
その光に気づいた瞬間、私を取り巻く世界が変化して見えました。
私の目が、魔力に敏感になり、色彩がピンク色へと変化します。
思い出したくもないノアに帯する劣情を抱いたときに感じた変化でした。
ですが、この時は、体全身ではなく視力、目の部分のみの変化だと、地震でわかりました。 おそらく、私の中に眠るもう一つの人格の持つ力なのでしょう?
もう一つの人格が目覚めかけている点はそれはそれで問題ですが、今重要なのは聖剣が放つ光が何を意味しているかと言うことでした。
どうやら、目――魔眼にはそれを識る力があるようでした。
「戦え―― 戦え―― 皆殺しにしろ! 静かな声が聞こえます。
好戦的なその禍々しさえ感じる声は、あろうことか女神様より託されし、聖剣が発する囁きでした。
これが女神様のご意志?
私は女神様がどういう神なのかは、宗教的な側面でしか知りません。
しかし、システィーナに戦いを強要する姿勢は褒められた物ではないように感じました。
かといって、システィーナは、シスターです。 エリスの敬虔な信者である以上は、
直接命令されれば、今と同じような行動を取る気がします。
しかし、このやり方には納得がいきませんでした。 本人が知らないところで、戦いを強要する女神様に私は密かに不信感を覚えるのでした。
そんなことを考えている間にも事態は進行します。
物語が戦闘中心なのか、こちらの方がビュー自体は伸びるのですが、評価は低い状態ですね。
どっちも50歩100歩レベルなのですが、モチベーションには影響大きいので、好意的な評価はうれしいですね。