3-4.空回り
帰りの車内は、終始無言が貫かれた。賢志郎がいよいよ肩で息をし始めたので、野々崎が彼の体調を気遣い会話を遠慮した形だ。
自宅前に到着すると、賢志郎は「ありがとうございました」と野々崎に向かって上ずった声で礼を述べた。
「すみませんでした、忙しいのに付き合ってもらっちゃって」
「それは構わないけど……ねえ、本当に大丈夫? ひとりで歩ける?」
大丈夫です、とだけ答えて、賢志郎は助手席から車を降りた。窓に向かって改めて頭を下げ、野々崎の車が見えなくなるまでその後ろ姿を目で追った。
――やべえ。
ふら、とからだが力なく傾ぐ。咄嗟に門扉の壁に手をつき、どうにか倒れ込んでしまうことは回避した。
ほとんど頭が働いていなかったが、発熱していることはなんとなく理解できた。ひどい悪寒に襲われる中、ぜぇぜぇと荒い呼吸を繰り返す。
目が霞み、景色がぐにゃりと歪む。咳き込むと、肺が痛くてたまらなかった。
「あー、しまった」
熱っぽい吐息とともに、賢志郎はぽつりとぼやいた。
「自転車……学校に置きっぱだ……」
リュックを押しつぶして壁に背を預け、虚ろな目で夕闇に染まる空を仰ぐ。
「あーあ」
目を閉じる。冷たい風が頬をなでた。
「カッコ悪、俺」
瞼を上げ、熱で潤んだ瞳で宙を見つめる。
杏由美のためを思って動いた結果、ほとんどすべてが裏目に出た。必死になって駆けずり回って、この手の中には、一体なにが残っただろう。
滑稽だ。賢志郎は自嘲する。
この三ヶ月間、俺はなにと闘ってきたのだろう。どんな敵を相手にすれば、こんなにもボロボロになるのだろう。
苦笑をこぼす気力もなかった。昼間飲んだ風邪薬の効果は完全に切れていた。こりゃ意識が飛ぶのも時間の問題だな、とりあえず家の中に入らなきゃと、もたれかかっている壁から離れようとしたその時、隣の家から、なにかが倒れたような大きな物音が聞こえてきた。
振り返ると、杏由美が真っ青な顔をして、自宅前の駐車場に自転車を乗り捨てていた。
同じく顔面蒼白の賢志郎に、杏由美は泣きながら飛びついた。しゃべることができない分、吐き出される息の震えが明確に伝わってくる。
――あぁ、あゆだ。あゆがいる。
言葉もないまま、賢志郎は杏由美のからだを抱き寄せた。体温も、においも曖昧にしか感じられなかったけれど、腕の中には、確かに杏由美の存在がある。
――そうだよ。あゆは生きてんだ。
それでいい。それ以上、なにを望むっていうんだ。
生きて、俺の隣にいてくれる。たったそれだけのことが叶わない人がいるってのに、俺はこれ以上、どんな幸せを望んでる?
朦朧とする意識の中で、賢志郎はただひたすらに、杏由美のからだを抱きしめ続けた。
もう二度と離さない、もう二度と泣かすまいと、その心に固く誓って。




