29◇第一印象はどうでしたかぁ?◇
オーフェンside
「では、ウィルに任せるとしよう。私はもう少しヒナの傍に居たいから話なら、外でしておくれ。」
そう言って彼らに背を向けると、私はいつものように棺の傍に胡坐をかいて座り込む。
それを見て、我が孫がクレイの保護したアイリという少女を連れて出ていく。
静かに締まる扉。
その後は、いつもと変わらない静寂であった、はず・・・
日永一日、愛する妻の顔を見続ける私は、その動かぬ唇が動き愛らしい声を響かせ名を呼んでくれる日を待ち続けた。例え、それがわずかな時間だと分かっていても・・・
「あの子が・・・、本当にあのアイリなのかしら?」
静寂を破り近くでマーリンの声がする。
「おそらく・・・そうかも、しれないですね。信じられませんが・・・」
コリーは納得できないが納得しようと努めているような声を出す。そこに多分に含まれた戸惑いは、短い間に齎された情報量の多さだろう。彼は、そういうところが年をとっても出会った時と変わらない。
「どちらにしても、お母様が目覚めればわかることです。
ウィルのおかげで思いのほか、少し時間ができましたね。」
そうして、私の向かいに娘が座る。
女王として責務を背負った毅然とした雰囲気は今はない。
ただ母恋しい、幼子のような柔い雰囲気で棺の中の母を見つめる。
「・・・・・・お母様」
ガラスに手を乗せ、小さく呟く言葉にそっと手を重ねる。
お互い目を合わせることはない。
ただ、棺の中でベールで被われている愛しい人を見つめるばかり。
もう少しだけ・・・
あの少女が来ることで、止まっていたヒナの時が動き出す。
少女が聖女だという確信を早くから持っていた私だけが知る事実。
私独自で抱えている、影の報告でヒナだけが使える独自の魔法を使ったとある日書かれていた。
それを扱える彼女が聖女であると間違えはないだろう。
彼女こそがヒナが待ち続けた『新たな聖女』であり、死を前にして最後に会いたいと願うほど渇望する親友の『アイリ』なのだ。
◇
ヒナの第一印象は、「コイツ大丈夫か?」だった。
世界中の期待を集めた聖女召喚で現れたヒナコ。
眩い光が室内を包み込みそれが引いた後、何も無かった魔法陣の中央に佇む一人の少女。それが、ヒナコだった。
儚い小動物のようにかわいらしく庇護欲そそる容姿の少女。見知らぬ場所にいきなり連れてこられ戸惑っているだろう。その弱弱しい姿に泣き出さないかと不安になり、なんと声をかけようかと躊躇っていた隙に、大神官長が先に声をかけていた。
「よくぞ我らの召喚に答えてくださいました。救いの聖」
「うわ~~~~~!!!!!え~~~~~、これってマジ?!
聖女召喚!ってやつ?
なになに?この世界、何?
マジもんの異世界転移?小説の世界?
それとも、乙女ゲーム?
まさか、私にRPG的な世界じゃないよね?RPGなんて『キミセカ2』しか、できないよ。あっ、でも今なら攻略本あるしぃ。
って、ここリド国とか言わないよね?」
大神官長の厳かに出された声を遮り、少女らしいかわいらしい声が興奮気味に響く。
興奮する少女の質問に戸惑いながら答えていく大神官は、チラチラとこちらに目をやってくる。おそらく、神からの遣わされた聖女に神官としての印象を強めたかった神殿側の思惑で声をかけて、この召喚儀式の全責任を持っている私を出し抜きたかったが現在はとても後悔していると言うところだろう。
丁度いいので、少女が落ち着くまで大神官長には彼女の相手をしてもらおう。
「やったー!私、ヒロイン?」
だが、この少女・・・
全てを任せて大丈夫なのか?????
その第一印象の不安は、ある意味当たり、ある意味外れた。
まず、あの召喚の場所で彼女は、召喚に参加していた一人の見習い神官を見つけると指をさしてその名を叫んだのだ。
「いた~!!!ツンデレ神官クレイ!!!!!キャーッ!!本物だっマジきゃわたん!」
見習いの少年神官の名前以外、何を言っているのか分からない。神の言葉を話しているのだろうか?それとも、なにかの魔術詠唱か?
後から知ったが、そのどちらでもなかったようだ。
意味は・・・・・・まあ、重要でなかったとだけ言っておこう。
だが、見習いでしかなかったクレイ少年を彼女は、魔王を倒すには大切なキーマンであると口にした。徐に手に持っていた、一冊の本を開き「ほら、ここに書いてあるのよ」と言って大神官長に見せていたが、首を傾げるばかりで困惑した表情だった。
その神官長が本気でこちらに助けを求めたので、やっと私も動こうと言う気が起きた。あの書物には、私も興味があったから。
「初めまして、聖女様。私は」
「あっ!オーフェン王子だ!!!こっちもいたっ!!!」
また興奮した声を上げ私を指さす聖女殿。その瞬間、彼女に騎士たちが静かに騒めくのが分かった。何しろ王族である私の話を堂々遮り、こちらが名乗る前に勝手に名を呼んだのだ。普通ならば、不敬罪と言われて投獄されるレベルの話だ。
実際に騎士たちの手は腰に下げた剣の柄にかかっている。
さすがに抜刀はないとおもうが、このままでは神の奇跡で降り立った聖女がなんといわれることか・・・
「聖女様、ここでは落ち着て話ができないでしょう。
一先ずは、別室にて話を聞いていただけますか?」
そう言っていつものように魅惑的に弧を描いた唇の微笑で手を差し伸べるが、彼女は眉をぴくっと不快そうに動かしただけで動かなくなった。
おかしい。
近隣国の王女でさえも誑し込めるといわれるような、特上の微笑みを向けたはずなのに彼女の頬は薄っすらとも赤く染まっていない。
それどころか、なぜか私の方を見ようともしない。
「・・・彼を、クレイも一緒でいい?」
やっと絞りだした言葉は、彼女が指差し興奮していた見習いの少年の名前だった。
場所を城の中の一室に移して、やっと落ち着いて話ができるようになった。部屋には、宰相や大臣たち騎士団長や魔術師団長まで揃って待っていた。
私が少女を連れて部屋に姿を現すと、部屋の空気が安堵したものに一気に変わった。
室内で待っている間、相当気を揉んでいたのだろう。
召喚はできたのか、召喚した聖女はどんな様子か、待つ間に心配は尽きなかっただろう。
少女は名前を『ヒナコ』と名乗った。
彼女が座る隣には、彼女が希望した通り見習い神官の少年が座った。クレイ少年は、居心地が悪そうだが聖女の希望ということで座らせた。というよりも、聖女がクレイの手を一度握ったが最後、握りしめて離そうとしないのだ。
「さて、聖女ヒナコ殿には、我らの世界を救って頂きたく、このような手段をとったことをまずは先に詫びさせていただきます。」
この召喚の儀の代表で責任者に王子である私がなったのは、この一言が重要だったから。この国の代表として、御出でいただいた聖女に誠心誠意、まずは謝罪をすべきというのが、過去の聖女召喚での重要な教訓と書かれていた。
彼女がどのくらいのことを分かって現れたのか知らないが、この後彼女に待ち受けるのは世界中から多大な期待を背負っての魔王の討伐だ。神からの啓示では、魔王の脅威から100年は安寧に暮らせると出ていた。つまりは魔王の消滅ではなく封印か力を削ぐかのどちらかだろう。
それは、仕方がないだろう。
今の魔王の脅威に怯えて暮らすよりかはマシだ。
魔王の封印後は、それがいつまで続くのか検証が必要だが、封印だとしてもそれはとても厳しいものだろう。何しろ、魔王のいる根城に誰一人辿り着いていないんだ。
それを彼女一人に背負わそうというのだ。こんな、幼い少女に。
そして、さらに言わなければいけないことがある。
「貴女に魔王を倒してもらわなければいけないという重大な使命を負わせる上に、・・・・・・元の世界には戻せないということを、本当に申し訳なく思います。」
私が彼女の前で頭を下げると、大神官長も宰相もすべてのものが一斉に膝をつき頭を下げた。
聖女ヒナコの隣で手を握りこまれているクレイ少年は、皆に倣い一拍遅れてから頭を下げるだけの不格好な姿をした。
彼女は、皆のその姿に驚き大きく目を見開き唖然としていた。
これは教訓にも書かれていた謝罪の大きな理由だ。それは、こちらに召喚する魔法陣と詠唱はあっても、返還の魔方陣も詠唱も存在しなかった。
つまり、彼女を元の世界に戻してあげることはできないということ・・・
本当は、このことは言わずに魔王を倒した後に言えばいいと思っていた。
王も、宰相も大臣たちもそういっていた。
だが神殿側は、真っ向から反対をした。
彼らの言い分では、聖女様が神から何かしらの使命をもらい降り立った場合、こちらが秘密していることを知っていたら、そんな不誠実な行動は神の怒りに触れるというのが言い分だ。その癖、大神官長が頭を下げるとは率先せず、代表となっている王子である私がすべきと宣った。主導を神殿でなく、王家に取られたことへの腹いせだろう。
尤も、本当に魔王を御してくれるというならば、頭ならいくらでも下げよう。そんなことで、世界が救われるなら安いものだ。
そんなところが、王子らしくないと言われる所以だろう。
だから、王族であり代表となった私が最初に頭を下げるという役目を仰せつかったのだ。
「えっ、あっそうか、もう帰れないんだ。・・・そっかぁ、愛李にこのことあとで報告とかできないのか・・・。
しかたない、のかな?」
彼女は、何か小さく呟いた後「それよりも話をしましょう」と笑顔で言った。
私は、この時彼女の強さに心を打たれたが後々、これはそうではなかったのだ知ることになる。
読んでくださりありがとうございます♪
面白かったよ☺️続きが気になりましたら、ブクマお願いします。
いいね(≧∇≦)b、☆評価いただけると喜びます。
次もオーフェンsideとなるよていです。
頑張れば、明日にも更新します・・・頑張れば・・・
なので、マナちゃん着せ替えごっこは、次回ということになります。




