24◇続編は約100年後の予定ですかぁ?◇
ふう・・・
「アイリ大丈夫?」
上質な布張りのクッションの効いたソファーに座り、入れてもらった花のような香りの紅茶で喉を潤すと知らず知らずに息が漏れた。
それはため息のように聞こえたらしい、フィオナさんが心配そうに隣で寄り添ってくれている。
私は、それにコクリと首を縦に動かして答えることしか今はできない。
泣きはらした目元は、クレイさんが回復魔法をかけてくれたことで腫れずにすんだけど、止まった涙はほんの少しの感情変動で再び決壊しかねない。説明をしてくれるというその言葉に、何とか感情を押し殺して止めた涙。素人が行った突貫工事のように涙を止めただけだから、いつまた号泣してしまうか恐ろしい。
こんなに泣いたのは、いつぶりだろうか・・・
日奈子がいなくなった時も、交通事故にあって後遺症が残ると言われた時も泣いたけど号泣とはいかなかった。
私の知る、地球とは違う異世界に来てから、一人ぼっちになってまさかの知人の消息を知ったことで感情が爆発してしまったと思う。
それ以外にこの涙の理由が見当たらない。
安堵したのだと思う。いろんな意味で・・・
日奈子が生きていた・・・
笑っていた・・・
絵で見ただけだけど、幸せそうに笑っていた。
ただただ、嬉しい。
あの日から、いろいろあったけど最終的に攫われた日奈子が無事で幸せならいいかと思ってしまった。
ああ、日奈子にお人好しだと怒られるかな?
出来たら叱ってほしいくらいだ。
そう思ったら、じんわりと目頭が熱くなりそうになった。
「アイリ嬢、今から話をする前にこちらを見てほしい。」
再び滲みそうな涙を堪えるように、瞼を閉じていたときすぐ近くから声がかけられた。
その声に慌てて目を開くと、そこには黒髪に金目の麗しい男性が膝をついて目の前で屈んでいた。
「えっ、あわぁぁぁ・・・イケメン?」
目尻が少し垂れた優しそうな瞳と艶やかな黒髪の男性。
ヒューバートさんやアシュトンさんたちと変わらない年齢の男性、確かさっき日奈子の娘の女王の子供と言った・・・ん?
ってことは・・・女王の息子、ってことは、あれ?
王子様?!
遅ればせながらそう認識すれば、よく考えれば、女王ってことは、この国最高権力者でもあるんだった!!!
「ぅぁっ!」
目の前の王子様は、下から座っている私の瞳を見上げて怪しく微笑んだ。
その微笑みたるや、艶やかなこと。
色気が駄々洩れとは、このことをいうのだと初めて目の前で体現できた。
というか、その怪しい視線を真っ正面から受けた私は、思わず胸を押さえてしまう。
美形男性アシュトンさんの微笑みをいつも間近で見ていても慣れないもので、アシュトンさんの爽やかイケメンとは違った、お色気イケメンの笑顔も心臓に悪い。
「アイリ嬢?」
そんな私の挙動不審な行動に、口元は微笑みを持ったまま瞳の不審な色をのせたお色気王子が再度名を呼ぶ。
うっはぁ、声も色気に溢れる声だわ。
その声で『アイリ嬢』って!嬢って、お嬢様のあの『嬢』でしょ?
生まれてこのかた、いや、前世からこのかたそんな風に呼ばれたことがないから照れるわぁ。
「はっ、はひぃ!」
あっやべ、イケメンの前で噛んじゃった。恥ずかしぃ。
許されるなら一旦は穴に入ることを諦めたけど、やっぱり穴に籠りたい。そこでまなと、飽きるまでおままごとをして引き籠っていたいくらいです。
「フッ・・・、そんなに硬くならないで、これを見てほしいんだ」
恥ずかしくも返事を噛んだ私にさっきまで見せていた、艶やかな微笑みとは違った笑みで私の手に渡されたのは、見覚えのあるもの。
随分と使い込まれているけど、私も使っていたから知っている。
というより、何故これがここに?
「これは?」
「使い方、知ってるの?」
「あぁはい、できますけど・・・」
色気王子は、ニコッと笑顔を深くして見せてと促してきたので改めて左の掌に乗せて、右の指を使って記憶の通りに使う。
「大丈夫?」
私の躊躇ない動作に、すぐ後ろにいたアシュトンさんから心配そうな声が小さくかけられる。
そんなに心配しなくても大丈夫です。頻繁に使っていたものだし、しかも毎日だ。
あの頃は、これが常に手元に無いと不安に陥ることもあったほどなのだから。
「・・・大丈夫です。ここを、こうして・・・あっ、動いた!」
これがなぜここにあるのか、なんとなくわかっていたが動く確証はなかった。
だけど、記憶にある通り側面の出っ張りを押さえると思った通りの動きをみせたソレ。
チャララッン
「「「「「「おお!!!」」」」」
起動音と共に光が灯ると、室内の誰もが声を上げた。
「やはり・・・、君がおばあさまが言っていた、新たな聖女・・・」
目の前で起動するのを感慨深く眺めているお色気王子様。
ぼんやりと光を放つソレを私も眺めて聞いていたが、聞き直したくなるような単語が聞こえた。
お色気王子に聞き直したいが、それよりも先に光が収まったソレに浮かび上がった文字に吸い寄せられて言葉をなくしてしまった。
────此れを見ている、貴女が次代の聖女です。100年経ち封印が解け復活した魔王をどうか滅してください 聖女、日奈子────
「えっ、100年後?・・・魔王の復活?」
思わず漏れた声に私の周りに集まる人たち。
「これにはなんて書いてあるの?」
集まったみんな、特にフィオナさんやアシュトンさんたちは文字を目にしているだろうに内容を聞いてくる。
やっぱりそうなんだ。この文字は誰も読めないんだな・・・
「これは・・・日本語で書いてあります、よね?」
聞いた相手は、お色気王子様。その彼は、私がわずかに上げた声に満足そうに笑みを深めていた。それは女王様も同じようで、驚きの表情を一瞬顔に表したが、その口元が喜びに綻び目を細めた。
「アイリ嬢、読み上げてくれ。」
私の質問に答えはなく、返された王子からの命令に戸惑いながら声に出して読み上げた。
一語一句、間違えなく。
最後の日奈子の名前も読み、顔を上げるとフィオナさんやアシュトンさんたちまでもその内容におどろいていた。
「100年って・・・、まだ50数年しかたっていないと言うのに、お母様の読みよりも早くに続編が始まったと言うことなのかしら?」
女王さまの声だけが響く声に、周りの人たちに緊張が走る。
特にアーサー様、勇者様たちは立ち上がって蒼白な顔で他の人たちより強ばっている。
というより、女王様の口から出ましたよ『続編』という言葉。
どういう意味なのか聞きたいけど、写し出された文字の後に現れた画像に目が釘付けになった。
「これ、・・・・・・私だ」
手の中にあるソレ───日奈子がいなくなった時に持っていたであろうスマホの待ち受け画面に映し出されたのは、いつ撮ったのかは覚えていないくらい頻繁にしていた自撮りで、一緒に目を細め大きな口を開けて笑う日奈子と今は懐かしいとさえ思える愛李だったころの私がいた。何が面白いのか今にも笑い声が聞こえそうなくらい間抜けな笑顔。
なんの悩みもないような笑顔の待ち受けの日奈子と懐かしい自分の顔を見ていてポロリと一つ粒涙がこぼれた。
そうか、間違いなくあの行方不明になった時に、日奈子はスマホとゲームの攻略本を持ってこの世界に召喚されたんだ・・・
改めて絵の中の日奈子は、やっぱり日奈子なんだと認めざるを得ないと寂しい気持ちにさせられた。
堪えきれずにこぼれた涙は一滴。
でもそれ以上に籠った感情は、言い表せないくらいの大きなものだった。
「あんね、マナちゃんね、じぃじ、きいて!きいて!!!」
私の様子を静かに見守ってくれる中、ただ一人クレイさんだけはマナに捕まりこちらを気にしつつも自分大好きな幼児のおしゃべりに付き合っていた。ほんのすこしでも、意識が他所に向こうものならば、容赦ないもみじの掌で頬を殴られて強制的に意識を向けなければいけないことになる。
実際にバッチィィィンと鳴り響く音。
そんな申し訳ない状況でマナを抱っこさせているというのに、私はそこに意識を向けることはなかった。
後で知って、クレイさんに平謝りでした・・・・・・
孫を怒れないおじいちゃんが、娘に苦言を呈するというのを身をもって体現しました。
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