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猫、拾いました。

作者: 三四四暮

 私は猫を飼っていた。


 きっかけは何だったっけ…… あぁ、そうだ。仕事で上司にこっぴどく叱られる毎日に癒やしが欲しいと思って飼い始めたんだ。


 ペットショップで一目見たとき「この子にしよう!」そう思ったのが懐かしい。


 そんな私の猫は1年前に亡くなった。


 寿命で亡くなったようで、人間に例えると百歳近くも生きていたそうだ。


 亡くなってから数日は仕事に集中できず、同僚から休めと言われて家でずっと泣いてたっけ……


 そんな心の傷も癒えてきて、思い出しても悲しくはあるものの泣くまではいかなくなったある日のこと。


 仕事が長引きいつもより遅く帰ることになり公園を通って近道をしようと思った時だった。


「にゃ~」と猫の鳴き声が聞こえた。


 いつもならそのまま通り過ぎるのだが、何故か気になり鳴き声を頼りに猫のもとへたどり着いた私は姿を見た瞬間ハッと息を飲んだ。


 飼っていた猫、「ミケ」にそっくりだったのだ。猫は私を見ると一層鳴きながら足元にやってきて甘えるように頭をこすりつけてきた。


 それを見てミケを思い出した私がこの猫を放っておくなどできるはずもなかった。


 幸いにも捨てるのはもったいないとミケを飼っていた時の爪とぎやトイレなどは捨てられなくてそのまま残っている。


 猫はしばらくすんすんと匂いを嗅いでいたが問題ないと判断したのかソファーの上に乗り我が物顔でくつろぎ始めた。


 ホントにあいつそっくりだ…… 図太くてずうずうしい…… けどそんなところも懐かしい。


 と、ここでとあることに気付いた。この猫は尻尾が2本あったのだ。


 頭が2つあったり心臓が2つあったりと体の一部に異変が起きて生まれる可能性があると前々から知っていたが、実際に目にしたのは初めてだ。


 ノミ取り用の首輪を念のため付けて私はひとまず寝ることにした。


 翌日、私は仕事を休み水をあげながら猫の名前を考えていたが、見た目が似ているからかミケしか思いつかず結局猫の名前はミケに決め、動物病院にミケを見せに行った。


 獣医によると去勢手術は原則しなくてはいけないらしく、手術をしてもらっている間にキャットフードやトイレの砂などを買いに行くことにした私は久しぶりにペットショップに足を踏み入れた。


「あー! 環季(たまき)さん! お久しぶりです! しばらく店に来ませんでしたが何かありましたか?」


 環季というのは私の名前だ。巡り巡って終わりが無いという「環」と季節の「季」から季節が巡るのが終わらないように長生きしてほしいと願って名付けたらしく、私はとても気に入っている。


「ミケが死んじゃってね。それでしばらく悲しくてミケに関わるところに行きたくなかったんだ」


「ご、ごめんなさい…… そうとは知らずに……」


「いいの。悲しくはあるけどだいぶマシになったし。それで今日ここに来た用なんだけどね……」


「なるほど…… 猫を拾ったからエサやトイレの砂が必要というわけですか…… ならまずはミケが使ってた物にしましょうか」


「うん。お願い」


 買い物を終えた私が動物病院に戻るとちょうど手術が終わったところですぐに家に帰ることができた。


 どんな動物もこういうときはかなり暴れて時間がかかるものだがミケは全く暴れず手術をしやすかったと獣医が言っていた。


 レシートを一週間分冷蔵庫に貼り、休みの日に整理するようにしている私はいつものようにレシートを冷蔵庫に貼った。


 こうしてまた猫を飼うことになったのだが、おかしなことが私の周りで起こるようになった。


 例えば出かける前は消していたはずのテレビが点いていたり洗濯物が畳まれていたりするのだ。


 鍵は私が常に持っているものと管理会社のと2つしかないはずだから不法侵入は出来ないはずだし、不法侵入したとして何も盗らずに家事をするだけの空き巣なんて聞いたことがない。


 怖くなった私は1日だけ我慢してその間に注文しておいた監視カメラを玄関に取り付け、誰か来たらわかるようにしてから出かけたのだが……


「なんで!? どうなってるの!?」


 結果は変わらずその日も同じことが起きた。すぐさま監視カメラを確認したのだがそこには誰も映っておらず、私は驚愕でしばらく固まっていたがふとこんなことを思った。


 早帰りして現場を押さえればいいのではないかと。


 早速次の日に私はお昼に仮病を使って早めに退社して家に帰って来た。


 慎重にドアを開いて中に入るとリビングからテレビの音が聴こえ、忍び足でリビングに向かった私が見たのはテレビを真剣に見ているミケの姿だった。


「ミケ……?」


 思わずそう言った私にミケは振り向き、


「おかえり、環季」




――――――――――――


 ハッと起き上がった時にはミケの姿はなく、数日が経ってもミケは帰って来ない。


 ミケの姿だけでなく買ったはずのトイレの砂やご飯も無くなっていて、夢だったんだと思いながらいつものようにレシート整理をしようとレシートの束を見ていた私はとあるレシートを見て涙を零した。


 ミケを拾った次の日のペットショップと動物病院のレシートがそこにあったのだ。


 後日友人に聞いたところ、尻尾が二股にわかれた猫は猫又という妖怪らしく、普通は年老いた猫がなるものらしい。


 待て、何かおかしい。


 ミケは確かに死んだのだ。私がこの目で見ていたし、目の前でペット用の墓地へ埋められたはず……


 ならあのミケは一体……?


 調べたところ化け猫が一番似ていることがわかり、あぁ、ミケは化け猫になってまで私に会いに来てくれたんだと私は思った。

猫又ではなく化け猫だったという落ちです。


猫又と化け猫は同じじゃないの? と思いましたが実際は違うもののようです。


猫又は年老いた猫がなるもの。


化け猫は殺された猫が怨みを晴らしになるものだそうです。


ですが怨みという強い感情で妖怪になるのなら、感謝の念で恩返しのために化け猫になるなんていうのも面白いのではないかと思った次第です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ホラーかもしれないですがこんなホラーならいいですね! 化け猫? 恨み? なんで? と最初わからなかったんですけど、後書きをゆっくり読んだら分かりました。夢幻企画の参加作品を拝読中なんですが…
[良い点] 「あやしい企画」で拝読しました。 ホラーとのことでしたが、あやしくて、やさしくて、そして、悲しいお話と感じました。 ところで、オスの三毛猫って、珍しいんですよね。
[良い点]  とてもホッコリしました。怪しい感じも出ています。私の友人が猫が亡くなって寝込みましたので、とても共感できました。 [一言]  読ませて頂きありがとうございます
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