運命の少女
お城をある程度案内された私はスタート位置に戻ってきました。
そう、サーリナ様とお話しした部屋だ。
でも、サーリナ様はさっき王様と話すとか言ってたし、いないかなーって思っていましたが…。
「おかえりなさい。レイ。どうだった?」
居ました。
紅茶を片手に優雅に微笑んでいました。
「あっ、ただいまです。」
「なんだー、母上はもう帰ってきてるのかー。」
「なによ、急いで終わらせてきたのよー。」
「ゆっくりでいいのに。で、どんな話し合いになったんだ?」
リュウ様に手をひかれ、そのままリュウ様の隣に座る。
座れば、メイドさん達が紅茶を差し出してくれるので、思わず手に取った。
うん、とても良いにおいがします。
「まぁ、とりあえずレイを異世界の客人としてうちで過ごしてもらうことになったわ。」
「えっ?いいんですか?」
「当然よ。あなたは馬鹿息子が呼んだのだから!その責任はちゃんと取るわ!それに…。」
サーリナ様はうんざりしたような顔でリュウ様の方を見る。
「いや、そんな当たり前のことを聞いてるのではなく!俺の運命との婚約については!?」
「…はぁ。やっぱり馬鹿息子め…。」
…婚約?
こんにゃく???
えっとー…なんのことですか?
いや、前から気になってはいたんですけど…。
俺の宝玉やら運命やらと言われてのを気になってたんですけど…。
本人に聞く勇気がなくて…。
「あなたの熱意は昔っから分かってるし。だからこそ今の今まで婚約者は作らなかったわ。周りに何を言われようとも。」
やれやれとため息をつくサーリナ様。
そんな姿も綺麗だけど…。
「あの…サーリナ様。あのあの、私はなんで喚ばれたのですか?」
「えっ!?リュウ!あなた何も説明してないの!?」
「あー…ああー、すっかり忘れてた。」
「こんのおおおおおお馬鹿息子おおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
サーリナ様は怒鳴り声を上げながら、リュウ様を殴った。
おう、すんごい音がしました。
とても痛そう。
リュウ様は頭を押さえながら涙目になってる。
「本当に馬鹿息子なんだから。」
「あのサーリナ様…?」
「あー、本当にごめんなさいね。私が説明してもいいのだけど…。」
そう言えば、さっきまで涙目だったリュウ様が立ち上がってサーリナ様を見る。
その目は少し怒ってるようで。
「あーはいはい、あなたが説明しなさい。」
そんなリュウ様を見て、サーリナ様は呆れたようにそういう。
リュウ様は私の目の前に再度座り、そして私の手をしっかりと握った。
…この人本当に手を握ったりするの好きだな…。
「すまない。君が来てくれたから嬉しすぎてすっかり説明するのを忘れていた。」
「嬉しすぎて?」
「そうだ!俺の運命がようやく俺の前に現れてくれたことが嬉しすぎて。」
リュウ様は幸せそうに笑う。
本当に幸せそうで…。
でも、なんでそんな表情を浮かべているのかが分からない。
それにまた運命って…。
「俺はレイ。君をずっと昔から知っていた。」
「えっ?」
「俺は昔から夢を見ていた。黒髪の可愛らしい女の子が出てくる夢を。俺はその子が俺の運命だって本能ながら気づいた。」
「はぁ。」
えっと…一体どういうこと?
夢に出てくる子が私と言いたいの?
「レイ、信じられないかもしれないが、この国の王族、つまり俺等は夢で自分の運命の相手を知ることができるんだ。」
「えぇ?」
「俺の父上も夢で母上を見て、探したんだ。自分の運命と呼んでな。」
驚いてサーリナ様を見ると、苦笑を浮かべて頷いている。
ってことは本当のこと?
なんだか信じられない話を聞いてテンパっているのだが、リュウ様は話を進めていく。
「ずっとずっと探していたんだ。この国中を、いやこの世界中を。俺の運命の黒の少女を。でも居なくて…。っでこの数日前に見た夢で気づいた。」
「一体…何を?」
「俺の運命は他の世界に居るんだって。」
「えっ?」
「だから俺は召喚術で俺の運命を喚ぶことにしたんだ。」
なんていうことでしょう…。
私はリュウ様の運命として喚ばれたそうです。
…なんじゃそりゃ…。
意味が分からない。
頭の処理が追いついてません…。
「レイには悪いことをしたと思う。本当にすまない。」
「いや、あの…。」
正直、あの世界から喚んでくれたのは有り難かったのですが…。
たぶん、あれがなければ今だに菫に騙されて言いように使われていたような気がするのです。
いや使われていたと思います。
そして最後にはうまく楯に使われ、死んでいたと思います。
それが、リュウ様に喚ばれたお陰で死ぬことはなかったから…。
「けど…俺には運命が必要なんだ。」
「えっと…?」
「今は戸惑っているから、これ以上言えないが…これからレイがこの世界を、俺を選んでもらえるように口説いていくから!」
話がどんどん進んでいく!!
私の頭じゃ処理が追いつきません!!
とりあえず…えっとリュウ様の運命とやらが私ってことですか?
いやでも…。
「会ったこともないのに…。そんな…。」
「…この運命は本当に厄介なのよ…。レイ。」
「サーリナ様…。」
「私もね、一度もあったこともなかったの。夫とは。でもね、あの人も私を運命と呼び、そのまま持ち帰ったから。」
「えっ、それって誘拐じゃ…。」
「えぇ、誘拐よ!でも、あの人王様…いやあの時は王子か。だからね…馬鹿に権力を与えてはならないと思うわ…。」
はぁっとため息をつくサーリナ様に、なんとなく分かっちゃいました。
権力で周りを黙らせたんですね…。
…恐い…。