試練
「あらあら、ごめんなさいねー。」
ふふふと笑う目の前の人は先程私に急に飛びついててきた人とは思えないぐらい穏やかに微笑んでいる。
しかし、さっきの勢いを忘れることは出来ないよ。
ダントさんが落ち着かせてなんとか、抜け出したのだから。
「いっいえ。」
「ふふ。それにしてもうちの人を助けてくれた子がこんなにも可愛らしいお嬢さんなんて!とってもビックリよ。」
「えっと。あの。」
「あらそうそう。改めてお礼を言わないと!うちの旦那を助けてくれて本当にありがとうございます。うちの旦那、熊みたいだし、大抵のは倒せるけども、中型の魔獣となればなかなかね。だから、本当に助けてくれて良かったわ。」
「いや、これが仕事ですし。」
「もう!こんなに可愛らしい子が仕事ですって!世も末ねー。」
そう言いながらも、私の頭を高速で撫でているムーアさん。
ムーアさんはダントさんの奥さんと聞いていたが、ダントさんが熊のようにガタイいいが、ムーアさんは美人さん。
そりゃあ、師匠とかには負けますが普通に美人さんです。
でも、そんなムーアさん、抱きしめる力はとっても強いです。
ええ、抜け出そうとしてもなかなか、抜け出せないほどでしたから。
「すまない。私達には子どもがいない。いや、そのことに関しては2人とも納得はしているのだが、やはり憧れは、するのだ。自分達の娘や、息子を。特にムーアは娘に対してとてもとても憧れているんだ。」
「はぁ。」
「この村にいる時には私の事をお母さんだと思ってくれていいからね!!」
「本当にすまない。」
ウキウキとするムーアさんに、ダントさんはため息をついている。
しかし、この世界にきて、こんな風に好意を向けられたことはなかった以前の私は、きっとムーアさんの様な人がいたら、それこそとても懐いたことだろう。
今の私だって嬉しさはある。
天涯孤独となってしまった私にとって、これほど裏もなく好意を寄せてくれる存在は本当に嬉しいもの。
それこそ、師匠やアーニャさん達。
勿論リュウ様も。
「いや、あの、私、その、天涯孤独なので、そう言ってもらえると嬉しいです。」
「えっ?そうなのか?」
「はい。その聖女様に拾われたので。母や父はいません。」
この世界では。
うん、嘘はついてない。
そう言えばムーアさんは一瞬悲しそうな表情を浮かべ、その後笑顔を浮かべ、優しく抱きしめてくれた。
一瞬、こんなに優しく抱きしめることもできるんだということにびっくりしてしまったが、優しく頭を撫でてくれるムーアさんは本当に優しい人なんだって思える。
あのままの私ならきっと、こんなに優しくされてもきっと何か裏があると思って素直に受け止めることは出来なかっただろうけども、今の私は師匠との修行を受け、体の使い方を知っている私だから素直に受け止めることができる。
ムーアさん達を悲しませることはない。
「ならば、なおよ。無理にとは言わないけども、良ければ私を本当に母と思ってちょうだい。この村にいるだけじゃなく。」
「嗚呼、それがいいな。」
ダントさんまでもがそう言うので、頷けば、またムーアさんに強く抱きしめられた。
いや、本当にどこからこんな力が湧くんです??




