挨拶の時間
アーニャさんの笑顔に何も言えなくなってしまう。
私が決めたことなのに。
それなのに、こうやって大切な人に悲しい思いをさせてしまっていると知ると後悔という思いが出てしまう。
でも、もう後戻りなんか出来ない。
私にできることは覚醒をしてみせること。
どんなに辛いものでも耐えて、また皆と笑顔で会えるように。
あっという間に時は過ぎ、夕暮れ。
アーニャさんが言ったようにリュウ様がやってきた。
「レイ。」
「お疲れ様です。ちゃんとお仕事をされたんですね。」
「レイに言われたからな。レイは今日からまた修行だろ?」
そうだ。
今日の朝からリュウ様には仕事を真面目にするようにいい、私は今日から再び修行をすると伝えたのだ。
「はい、まぁ、今日は久々なので、軽くですけど。師匠から聞きましたが、リュウ様、明日から帝国の方に行かれるんですよね?」
「レイに言いやがったのか、母上め。必ず行かせるためだな。」
「数日は帰られないとも聞きましたが。」
「そうだ。帝国の方で色々とあってな。」
色々。
それは勇者に関する事だと予想できる。
きっと、期限はもうすぐ。
だから準備等のことがあるのだろう。
「しばらく帰ってこれそうにない。」
「そうですか。私もこれから師匠から言われてしばらく修行で遠方に出かけますので。」
「なんだと!?母上!聞いてないぞ!」
「言ってませんからね。着いてくるなど言わないでくださいね?」
「うぅ。」
遠方に行くというのは嘘。
でも、実際しばらく私はこの部屋から出られないので、姿が見えないことの言い訳にこう言っている。
師匠もそう言いなさいと言われたので。
いつ目覚めるかも分からないが、これで当分は誤魔化せるはずだから。
「仕方がないが、何かあればすぐに呼んでくれ。いつでもどこでも駆けつけるから。」
「リュウ様なら本当に駆けつけそうですね。でもちゃんとお仕事をしてくださいね。」
「分かっている。」
不貞腐れているようなリュウ様に思わず笑いがこぼれる。
嗚呼、始まりはあなただった。
わけも分からず、絶望にくれた日、あなたの声で目が覚めた。
それから数ヶ月でこんなにも穏やかに過ごせた。
「感謝しています。」
「えっ?」
「あなたが私をこの世界に呼んでくれたことを。あなたが呼んでくれたからこそ、私はまた笑えるんです。」
「レイ。」
「ごめんなさい。急に。なんとなく言いたくなって。」
そう言えば、リュウ様に抱きしめられる。
嗚呼、もう驚かくなくなってしまった。
それだけ、抱きしめることが多かったのね。
この暖かさもよく覚えている。
「レイ、俺の方こそありがとう。俺と出会ってくれて。」
「リュウ様。」
「修行、無理せず頑張ってくれ。怪我はしないようにな。」
「はい、リュウ様もちゃーんと仕事をしてくださいね。」
「分かっている。」




