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絶望的な勇者

「レイちゃん?」



ジゼン様が不思議そうに、私を見るが、私はそんなことを気にしていられなかった。

なんて馬鹿な人。

愚かでしょう?

私の命なんて考えている暇があるの?

自分が死ぬかもしれないのに。

なんで、私の事なんて考えるの?

皆、自分の命が大切でしょう。

あの世界だって、自分の命を優先していた。

だから、私は犠牲になった。

だから、私は絶望した。

なのに、なのに、なのに。



「アデル様が言うことが正しいのに。」



他人である私なんて犠牲にすればいいのに。

なのに、なのに、彼は、リュウ様は。



「本当に、本当に、馬鹿な人。」


「レイちゃん。」


「ジゼン様、よく分かりました。そして、何故あなたが私をここに連れてきたのかも。」


「あっ、それは。」



真っ直ぐにジゼン様を見つめれば、ジゼン様は困った表情を浮かべている。

嗚呼、この人も。

覚悟を決めて連れてきたのでしょうね、私をここに。

なのに、後悔してるなんて。

本当に本当に、馬鹿な人達。

優しすぎる人達。

アデル様だって、リュウ様に内密で私に伝え、命令することも出来たのに。



「さあ、帰りましょう。ここにこのまま居ても意味は、無いですから。」


「あのね、レイちゃん。」


「ジゼン様、いいですから。帰りましょう。」



ジゼン様が何かを言おうとするが、それを止めて笑う。

もう、何も言わないで欲しい。



「レイちゃん。わかったよ。帰ろう。」


「はい、ありがとうございます。」



ジゼン様は苦笑して、再度転移魔法を使って部屋まで帰してくれた。

その後、私達は何も話さず、ジゼン様はまた部屋から消えた。



「ごめん。」



小さく呟かれた言葉を私は聞かなかった振りをした。

ごめんなど言われることはないのだからきっと、聞き間違い。

彼がした行為は何も間違ってはいないのだから。



「本当に。」



そのまま、眠る気にもならず、星もない夜空を眺める。

何も知らずにいたら幸せだっただろうか。

いいえ、きっと私はあの時も、何も知らずにいたからこそ裏切られたと思ったのだ。

死ぬことは、恐ろしい。

怖いと思う。

でも、でも。



「誰かの犠牲で生き延びたとして私は。」



嗚呼、私は、だから強くなりたかったのか。

嗚呼、なんて単純なことに気づかなかったのだろうか。



「私は強くなって、誰かを守れるようになりたい。」



人をまた信じられるように強くなりたい。

その気持ちは嘘じゃない。

でも、もっと単純に私は誰かを守りたかったんだ。

私はもう一度、ちゃんと人を信じて、その人を守りたかったんだ。

守られる存在じゃなくて、守ることのできる存在に。



「だから私はあの人に憧れをもったのか。」



金色のあの人。

菫を信じ、守ることのできるあの人。

私はあの人のようになりたかったのか。



「ふふふ、今頃気付くなんて馬鹿だわ。」



なんで、人を信じるために強くなりたかったのか。

信じるに値する人を守りたかったから。

だから、だから私は。



「ならば、私は。」

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