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思い

師匠はまっすぐに私を見た。



「これに関してはリスクが大きすぎるわ。」


「師匠。」


「正直、あの人が観たとしても、実際に今までの成功例はないの。」


「一度も・・・。」


「そう、一度もよ。だから私は、あなたの師匠としては反対する。」



師匠の瞳は本当にまっすぐに私を観ていた。

慈愛に満ちた瞳。



「でも、さっきも言ったけどそれは最後はあなたが決めること。」


「私が・・・。」


「怖く感じていることはいいことよ。」


「いい・・・こと・・・ですか?」



恐怖を感じることがですか?

私は強くなりたいのに・・・。

心も、身体も。

だけど、今も弱いから、こんなに恐怖を感じるのだと思って恥じてたのに。



「当たり前よ。死を怖く感じなくなってしまったら終わりよ。」


「終わり?」


「えぇ、人は恐怖を感じるからこそ強くなるのよ。」


「え?」



師匠が私の顔を覗き込みながら優しい微笑みを浮かべ、頭を優しく撫でてくる。

そのなで方はとても優しくて。

まるで、間違いを犯した子どもを優しく諭す母親のようで。



「ねぇ、レイ。あなたは強くなりたいのよね?」


「はっはい。」


「なら、さっきの恐怖を忘れちゃだめよ。否定しては駄目よ。恐怖を感じる自分を。」


「えっ・・・あっ・・・。」


「それを忘れてしまったら、ただの兵器になっちゃうわ。・・・一昔の宝玉の乙女たちのように・・・。」


「うぇ・・・あっ。」



そうだった、そうでした。

宝玉の乙女様たちは兵器のように扱う国があったって。

今さっき話していたのに。



「宝玉の乙女たちは恐怖を忘れた。いえ、否定した。だから、あんなにも辛く悲しい歴史が産まれた。」


「師匠・・・。」


「人なのにね。だから、こそ、今は忘れては駄目だと言い続けているわ。」


「死の恐怖ですか?」


「いいえ、それだけじゃない。自分が傷つくことを、そして大事な人をなくしてしまうかもしれないという恐怖を。」



人として生きるために大事なのよと言って笑う師匠に私は思わず目をそらしたくなった。

気付いたからだ。

私はなんて馬鹿なことを考えていたのだろうかって。

強くなりたいって思ってた。

怖いなんて感じるのは弱い印だって思ってた。

でもそれって間違ってた。

怖いからこそ、強くなれるのに。

死にたくないって思うからこそ、大切な人を亡くしたくない、守りたいって思うからこそ人は強くなれるのに。

なのに、私は。

なんて馬鹿なことを。

私は、もう二度と裏切られて傷つきたくないから1人で生きられるようにって思ってた。

でも、それって強くなったわけじゃない。



「気付いたようね。」


「師匠。」


「レイは最初人を信じるために強くなりたいって言ってたじゃない。でも、最近は強くなりたいって思いが強すぎて、大事なことを忘れているわ。」



そうだった。

私は、人をまた信じられるように強くなりたかったんだ。

そうだった。

別に死を、恐怖を全て感じなくなるようになりたかったんじゃなかったんだ。

寧ろ、そんなの強さじゃないって思ってたのに。

あの人たちみたいになりたくないって。

あの人たちは、死や、失う恐怖を忘れて、傲慢になってた。

自分が死ぬことないって。

自分たちは強いからって弱いものを下に観て・・・。

そんなのになりたくないって思ってたのに・・・。



「レイ。大丈夫よ。あなたはまだ忘れていたわけじゃない。ちゃーんと覚えているじゃない。」


「師匠・・・。」


「だから、いいの。その恐怖もしっかりと考える材料にしなさい。」


「宝玉の乙女になることを考える材料にですか?」


「えぇ。そ、れ、に。」



師匠はずいっと近寄ってきて愛らしくウィンクをしている。

うん、美女のウィンクは威力があります。



「まだ考えるのに材料が足らないと思うのよ。宝玉の乙女のことも、この国のこと、この世界のこと。レイはまだまだ知らない。」


「えっと、師匠?」


「今までずーっとレイはこの城の中、いえ、この鍛錬所と自分の部屋ぐらいしか行き来してないでしょ?修行に集中しすぎて。」


「あ、え?」


「だ、か、ら!レイ!あなた明日から修行はお休みにして、観てきなさい!」


「え?えぇ?何をですか?」


「何をって、決まってるじゃない!宝玉の乙女たちを!そしてこの国を!」



にっこり満面の笑みの師匠は大変美しいのですが、急に一体何を?


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