父親
「どうするんだ?」
王様が立ち去り、それを急いで追いかけていった師匠が出て行って今まで黙っていたリュウ様がそう問いかけてきた。
「どうするって・・・。」
困惑しながらもリュウ様を見る。
リュウ様はじっと私を見ている。
「宝玉の乙女になるのか?」
「それは・・・。」
「もうっ!!」
リュウ様が詰め寄ってくるのをアーニャさんがその間に入って止めてくれる。
助かりました。
「今の今までアデル様の魔法で一切しゃべれなかったくせに。急にレイ様にがつがつと!」
「えっ、そうなんですか?」
「そうなんです。この方はアデル様が喋ると面倒だからってレイ様に説明するときには魔術で黙らされていたんです。」
アーニャさんがそう説明している後ろでリュウ様は眉を寄せている。
だから今までずっと黙ってたんですね。
今までのリュウ様なら何か言ってそうだったのに何も言わないのはなんでだろうって頭の片隅で思ってたんです。
まぁ、片隅ですけど。
だって、そんなことよりも王様の話がビックリで。
そのことを聞いて考えるのに手一杯だったので・・・。
「あの糞父上め。いくら力を入れてもとけやしないのを!」
「無理です。あの日以来あなたの力でアデル様に勝てることはあり得ないんですから。」
「あの日以来?」
「えぇ、一度、この人取り返しの付かないことをしようとして。それをアデル様が呪いで止めて以来、アデル様には勝てなくなってるんです。」
「呪い!?」
呪いって、あの呪い?
想像できるのは恐ろしいものばかりで。
人の命を犠牲にとか、怨念とか。
そういう何か怖いものっていうイメージなのですが。
魔法や魔術とは違って。
それを王様がリュウ様に?
息子であるリュウ様に、父親の王様が?
「えぇ。この人、一応魔力だけは歴代1ですからね。だから、本気のこの人には基本的にどんな魔術も効かないんですよね。」
「だから、呪い?」
「はい、止めるとはいえ呪いをかけることはアデル様も苦渋の決断だったようですけど。」
「呪いってやっぱり・・・。」
「ああ、レイの思っているとおりのものだ。魔術とは違い、一度かかると解くことが難しい。」
「一生かかったままの人もいます。現在のリュウ様も未だにかかったままです。」
「そんな・・・。」
「ああ、でもこの人の場合はかかったままのほうがいいんですけどね。」
「えっ?」
それってどういう意味?
疑問に思って2人を見ているとリュウ様は少し表情をゆがめ、アーニャさんは笑顔を浮かべている。
「俺にかかった呪いは、父上が念じれば、身体の動きを一切封じ込めるっていうものなんだ。」
「なので、さきほどは一切動かなかった。いえ、動けなかったというわけなんです。」
アーニャさんはにやにやしながらそう説明してくれる。
動けなくする呪い。
これって結構な呪いなような気がするのですが。
「まぁ、よっぽどのことがない限り、父上もそれを使うことはないがな。」
「アデル様も代償がありますからね。」
「代償ですか?」
「はい。呪いと魔術の一番の違いは、代償の大きさです。通常、魔術では魔力を代償に使えます。でも呪いは。」
「使い手の精神力を代償にしているんだ。」
「精神力?」
「あぁ、まぁ、この呪いはだがな。他にもいろいろな呪いはあるが、人の命を犠牲にとかもな。」
「アデル様の使った呪いは精神力と魔力を代償にしています。精神力は人の正気を保たせる大事な物です。精神力が少なくなれば少なくなるほど人は正気では居られず、最後には狂ってしまいます。」
「狂ったものの末路は、まぁ酷いものばかりだ。だから、父上もそんなに頻繁にはこの呪いを発動させることはない。」
「それに、アデル様の精神力はたぶん歴代一位ですからね。」
「そうなんですか?」
「えぇ、アデル様が先ほど言っていた未来を見る能力のお陰で。いやせいでと言えるでしょうかね?」
未来を見る力のせいで?
「未来を見るなんて並大抵の精神では見続けることはできないので。」
「自分が死ぬ未来。愛した人が死ぬ未来。絶望の世界。そんなのを何度も見るからな。正直言って狂ってしまっても可笑しくないのだが。」
「それを、王様は。」
「あぁ、狂わず今も生きている。すごい精神力を持っているからできているんだ。」
そう言うリュウ様は誇らしげだった。
その姿を見て、父親である王様、アデル様を尊敬していることがよく分かった。
あれほど暴言を吐きながらも父親として、王として慕い、そして憧れているんですね。
そんな姿は少し可愛いなと思えてしまった。




