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異世界→異世界


旅は厳しく辛いものだった。

聖女の菫は王子様達から守られていたが、私は自分自身で自分を守らなければならない。

それは仕方がないこと。

でも、今まで平和な世界に生きていた小娘な私は、魔獣を倒すことなどできるはずもなく、ただただ逃げるだけ。

おかげさまで逃げるのだけはとても上手になった。




「やくたたず。」


「スミレの恩恵で生きながらえてるくせに。」



日々の暴言にも慣れた。

旅をするようになって、いつも菫のそばに居る私がとても気にくわないみたいで。

今までは菫に見つからないように言っていた暴言ももう我慢できないようで、普通に言ってくる。

まぁ、そのたびに菫が庇ってくれるんだけど。

それが火に油を注いでるようで…。

暴力も城にいたときよりも酷くなった。

やめて欲しいな…。

傷むと逃げるのが遅くなっちゃうから…。

まぁ、彼らにはそんなこと関係ないし。

寧ろ死んでくれたらって思ってることも知ってる。

言われたからね。

まぁ、日々そんな扱いを受けても私は菫のそばに居る。




「澪にそんな酷いこと言わないで!!」


「菫…。」


「澪は私の親友なんだから!」




菫がそう言ってくれるから。。

私はこんなに役立たずでも菫は私を親友と言って必要としてくれている。

菫が必要としてくれるなら、私はそばに居続ける。

それに、最近気づいたの。



「…早くこい。」


「…はい。」




私に唯一普通に声を掛けてくれる人がいるの。

城にいたときから、暴言はあまり言わないし、暴力を振るわれたこともなかった。

時折、邪魔だと言われるぐらい。

この国の騎士様。

金色の髪に金色の瞳を持つ騎士様。

名をアーヴィン様。

国最強と呼ばれた騎士様。

そんな騎士様も菫を愛しく思っているようで、優しい瞳で見ている。

菫の銀と、アーヴィン様の金が並ぶととても綺麗で。

お似合いだと感じた。

そうとてもお似合いな二人。

王子様達には悪いけど、私はアーヴィン様と菫が一緒になってほしいなって思ってる。

だって二人とも優しい人たちだから。



「なんて…いらないお世話よね…。」



小さく漏れた言葉はなんとも悲しそうだったのは気のせい。

そんなことを気にしている暇はないよね。

私は必死で逃げて生きながらえなくちゃ。

今だって、ようやく魔獣との戦闘を終えたところ。

やくたたずと言われながらもなんとか生き延びた。

菫は聖なる力を使って傷ついた仲間達を癒やしていた。

もちろん騎士のアーヴィン様は一番酷い怪我で。

そんあアーヴィン様を癒やしている菫の姿にまた思わず考えてしまっていた。

私がそんなことを考えている暇に菫は治療を終えたみたい。

菫が立ち上がり、他の人も前に進み始める。

私は少し間をあけて歩き出そうとする。

そう歩き出そうとした。

でも、私の足は動かなかった。

なんで?

下を見れば黒い穴が私の足を飲み込んでいた。



「ひぃっ!」



思わず声が漏れる。

なにこれなにこれなにこれ!!!



「たっ助けて!!」



思わず前を向いているスミレたちに助けを求めた。

手を伸ばして、助けを求めた。

スミレたちは振り返った。

そう振り返った。

嗚呼、お願い、助けて!!

そう叫んだ。

叫んでいる間も、どんどんと私の体は沈んでいく。

お願い!

お願い!!!

助けて!!!

菫、助けて!

菫なら、助けてくれるよね!?

いつも私をかばってくれた菫なら!!

私を親友って言ってくれた菫なら!



「レッ「駄目よ。」


「…えっ?」



菫の声が、言葉が信じられなかった。

えっ、だって。

私、このままじゃ。



「だって、澪を助けて他の皆が沈んだらしたら大変だもの。」


「そうだな。」


「捕まったのが役立たずで良かったな。」


「ようやく役に立てるねー、クズ。」


「うっ、そ…。」



うそよ、嘘よね?

菫。



「ごめんね、澪。私たちは魔王を倒しに行かないといけないの。だから、澪には犠牲になってもらう。」


「なんで…菫…。」


「このトラップは誰かが犠牲にならないと駄目なの。だからね。優しい澪なら分かってくれるでしょう?」


「す、みれ…?」


「大丈夫、ちゃんと世界は救ってみせるからね?」




嗚呼、嗚呼…。

私は騙されていたのね。

私は今まで、この為だけに生かされていたのね。

この為に優しくして、親友だっていって…。

きっと菫はこのトラップを知っていたのね。

菫を見てそう感じた。

だって菫は落ち着いて私を見ていたから。

何もかも分かったような顔で。

嗚呼…嗚呼。

菫の笑顔が歪んで見える。



「さようなら、親友。」


「あっ、あぁ…。」



笑顔の菫が前を歩き始める。

それに続いていく一行。

嗚呼…嗚呼嗚呼!!!!

叫びたいのに、もう口まで黒い闇に包まれている。

溢れる涙。

最後に見たのは、私が心惹かれた金色の瞳が静かに前を向いて歩き出した背中でした。

嗚呼…嗚呼…。



『愚かな私が憎い。』



暗い暗い闇に沈んでいく。

嗚呼、私は死ぬのね。

馬鹿な私。

優しい言葉に騙されて、結局何も残さず死ぬのね。




「次はもっと強くなって、馬鹿な私じゃなくなりたいな…。」



あんな言葉に騙されたりしない、一人で生きていける強い人になりたいな…。

あいつらを見返せるぐらいに…。

あんな最低な奴らを…。




「あいつらを全員倒せるぐらい、強くなりたい。」



なんて、死ぬからもう無理だけど。

でも、来世があるのならば、願いたいな。

強く、強く、そう願った。



「なら、なればいいだろ?」


「…ぇ?」



急に声が聞こえた。

男の声が。

その声が聞こえてから闇が消え、急に周りが光に包まれ、私の体が宙に浮いた。

いや、浮いたのではなく、誰かに抱き上げられているのだ。



「はじめまして、俺の宝玉!」


「…え?」



瞼を開けば、美形の笑顔がドアップで。

思わず、目を見開く。



「俺の宝玉は可愛らしいな。」


「ひぃっ!!」



頭の中が真っ白になることが再びあるとは。

人生分からないものだと冷静な自分がいるが、体はどうやら冷静ではなかったようで。

まぁ、それもそうでしょうね。

この短時間で…短時間なのかも分からないけど。

私の感覚では短時間で、怒濤の展開で。

パニックで、精神的に限界で。

だから仕方がなかったのだ。




「いやあああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」



大声で叫び、泣き叫んだのは。

私は悪くないと思うのです。


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