運命 リュウside
「リュウ、あなたすべて知っていたわね?」
「一体何のことかな?」
軽く返せば、母上はこちらを睨んできた。
本当に短気な人だ。
「そんなに睨まなくても。」
「煩いわ。レイも今は居ないのだから、隠す必要もないでしょうが。」
そう俺の運命こと、レイは今はこの部屋にはいない。
疲れがたまっているようだったので、レイの部屋に案内して休ませた。
一応話もまとまったことだしな。
今日一日でいろいろなことが起きて、レイは相当疲れただろう。
異世界にさらに召喚されるというな。
「まぁ、そうだが。」
「本当にあんたは、父親に似て腹黒いのだから。」
はぁっとため息をつく母上に苦笑が漏れる。
まぁ、母上が一番父上の被害者だからな。
父上の運命な母上はいつだって父上に振り回されている。
周囲は母上が父上を振り回していると思っているだろうが事実は逆なのだ。
そう、いつだって運命を振り回しているのは俺たち王族だ。
勝手に運命と呼び、勝手に愛している。
そう、俺だって、レイを俺の為に犠牲にしているのだ。
俺の運命のために。
「嗚呼、もう、本当に厄介ね!あなたたちの運命とやらわ!」
そうだ、他人から見たら良い迷惑で厄介なものだ。
でも、俺たちからしたら、自分の生死にさえ関わる大事なことだ。
俺たちの運命を得ることは。
得るためには何を犠牲にしてもかまわない。
そう、それが運命の相手でも。
俺は俺の運命、レイを思い出して笑う。
母上は気味悪そうに見ているが気にしない。
なんて愛らしく美しいのだろう。
今までは夢でしか出会えなかった彼女を実際に目にすれば、もう愛しさがあふれ出してしまうのだ。
夢でさえ愛しくて仕方がなかったのに。
そう、夢だ。
今までは夢でしか会えなかったのだ。
俺たちエルーマ一族は運命の相手を夢で見る。
俺は3歳の時から夢に見ていた。
美しい黒髪をもつ、愛らしい少女を。
最初は小さな赤ん坊だった。
小さな手を力一杯伸ばし、俺をつかもうとするなんとも愛らしい姿だった。
夢では触れることが叶わず、しかしそれでも俺に笑顔を向ける小さな姫に俺はすぐに恋をした。
そして気づいた。
彼女が俺の運命であり、俺の宝玉だと。
毎日のように見続ける彼女の夢。
彼女に会いたいが為によく眠る子だった。
日々、成長していく彼女にどんどん愛しさが募った。
最初は夢で彼女に会うだけで満足した。
しかし、愛しさが募るにつれ、直接会いたいと願った。
触れたいと、抱きしめたいと願った。
しかし、どれほど願ったところで、彼女に会うことはできなかった。
どんなに探しても彼女に会えないことを知っていた。
父上もなかなか母上に会えなかったと聞いていた。
それは母上が違う国にいたからだと。
でも、俺はさらに彼女に会えないことを知っていた。
なぜなら、夢で見る風景がこの世界中を探してもどこにもない風景だったからだ。
不思議なものがたくさんある世界。
これはきっと俺の住んでいる世界とは全く違う世界なのだと気づいた。
「なんで…なんで…。」
異世界。
その事実にどれほど絶望したか。
俺はこんなにも彼女を愛しているのに、彼女に会うことができないのか。
一時期、俺は絶望のあまり、夢の中でしか会えない彼女に会うために一生眠る魔術を使おうとした。
使う前に母上に気づかれてボッコボッコにされてしまったが。
泣きながら殴る母上の姿に父上が動いてしまい、俺はその魔術を使うことはできなくなってしまった。
ならばどうしたらいいのか。
どうすればいいのか。
俺は俺の運命を諦めなくてはならないのか。
そんなことができるのか。
いいや、できるはずもない。
それを考えるだけで、辛くて苦しくて死ぬ方がどんだけいいか。
運命を諦めるのがどれほどか。
それを父上に話せば、父上はおとぎ話でしか出てこない魔術の話をした。
そう、異世界から人を召喚する魔術の話を。
とても昔のおとぎ話で信じている人はどこにもいないような魔術を。
でも、俺はそれを聞いて、希望をもってしまった。
どれだけの年月を掛けようともその魔術を見つけてやろうと。
それから俺はいろいろな国や人に会い、その魔術を得るために必死になった。
その間に何度も婚約の話が出たが、全て潰した。
彼女以外の女になど興味なく、夜会などに出るのは時間の無駄で、一切俺は出なかった。
母上は呆れたが何も言わなかった。
父上も運命の相手がどういうものかを自分自身がよく知っているからか何も言ってこなかった。
周囲も俺の気迫に何も言わなくなり、もう婚約をもってくるようなやつはいなくなった。
そうして13年が経ち、ようやく小さな情報を手に入れ、そこからなんとかおとぎ話の中でしかなかった魔術を手に入れることができたのだ。
その魔術も相当高度な魔術だったが、王族であり最高魔力をもつと言われ俺が本気になれば取得することができた。
そう方法を俺は手に入れた。
ようやく、俺は彼女に会える手立てを手に入れたのだ。
しかし、俺はその後3年間魔術を使うことができなかった。
「しかし、今まで魔術を使おうとしなかったあなたが、何故今したのか、十分理解できたわ。」
母上は悲しげに笑う。
そんな母上を見て、先ほどレイが話した話が思い返される。
本当に胸くそ悪い話だ。
俺の愛しいレイを、俺の運命を奴らは。
嗚呼、本当に殺してやりたい。
あらゆる苦痛を与えて殺してやりたい。
嗚呼、怒りのあまり手に持っていたグラスが割れてしまった。
それを母上も見ているが何も言わない。
母上も静かに怒っているからだろうな。
そう、怒らずにはいられないだろう。
もうレイを大切に思っている母上は。
昔から俺が話していたから母上だって知っているのだ。
それこそ聞き飽きるほど、俺は母上に話しているのだから。
俺の運命の話を。
初めて会った気がしないぐらいだろう。
だから、母上はレイに対して警戒心もなく穏やかに接していたのだから。
一応、宝玉の乙女の母上はいつだって信じていないものには一線を引いて接する。
でもレイに対しては一切それがなかった。
だからレイも戸惑いながらも、母上に心穏やかに接していたのだろう。
あんなことがあったのに。
そうだ、あんなことが。
俺が魔術を手に入れても、レイをなかなか呼び出さなかったのに。
レイは元の世界で穏やかに楽しく過ごしているようだった。
自分の家族や友達と笑い合い、幸せに穏やかに暮らしていたのだ。
そんな姿を見ていたから、俺はなかなか魔術を使えなかった。
レイに会いたい気持ちはあった。
それこそそれが生きる糧だった。
でも、幸せそうに笑うレイを見ると。
俺の身勝手な行動でその幸せを奪って良いのだろうか。
俺の中でそんな考えが湧いたのだ。
何を犠牲にしても俺は運命を手に入れる。
そう何を、それが運命の気持ちでも。
そう考えていた。
それが当然だと思っていた。
でも、実際に力を手に入れ、さぁ運命をと思ったときに俺は何故か止まってしまったのだ。
そしてこう考えたのだ。
『この世界に喚んで、運命は幸せなのか』と。
今、運命は幸せなのに、それを壊して、彼女は笑ってくれるだろうかと。
もちろん、俺のそばで幸せにする自信はある。
笑顔にする自信はある。
でも、それは今の幸せを犠牲にすることになるのだ。
それは、本当によいことなのだろうか。
そう思ってしまうと止まってしまったのだ。
考えて考えて…。
どんなに考えても結論は出なかった。




