人影
「あれっ?」
「んっ、どうした?レイ。」
「いや、あの、人はみんな避難しているはずですよね?」
「嗚呼、そのはずだが。」
確かに全ての人は避難しているはずなのに。
新しい神殿のある場所、ある村にやってきて神殿にいつものように行こうとした時、人影が見えたような気がした。
それも小さな人影。
あれは。
「子供?」
「子供だって?まさか、そんなことがあるはず。」
「いや、でも、あの森の中に小さな人影が。いえ、見間違いかも知れません。」
そう、見間違いよね。
きっと。
だって、ここは魔素がとっても濃くて、もし子どもが居れば、確実に悪影響を受けてしまう。
それこそ死んでしまうぐらいだ。
勇者であるリュウ様や、初代宝玉の乙女と同じ力をもつ私は影響がないけども、ただの普通の子どもがいたとしたら、それは。
「行ってみよう。」
「えっ?」
「気になるんだろ?」
「リュウ様?」
「気の所為だったらいいが、もし、本当に居たのならば、早くここから離した方がいい。魔素によって影響があるかもしれないからな。」
「でも、早く魔素の封印をしなくちゃ。」
「大丈夫だ。これほど魔素が出てるんだ。今更少し遅れたぐらい。それこそ人影が本当かどうか確かめるぐらい変わらないさ。それよりもレイが気になって仕方がない方が危険だから。」
「リュウ様。」
「俺は、あまり回復魔法は得意じゃないが、できないわけではない。だから、行くぞ。」
「はいっ!」
リュウ様の声に頷き、走り出す。
やはりリュウ様は優しいな。
なんでもなかったらいいのだけども。
奥へと入っていくと、ガソゴソと音がする。
1度立ち止まって耳をすませば、話し声が聞こえる。
幼い少女の声とそれより少し高い女性の声。
「リュウ様。」
「嗚呼、誰かいる。」
可笑しい、村の人はみんな避難しているはずなのに。
なのに、幼い少女の声がするなんて。
「ごめんよ、食べ物、あんまりなかった。」
「ううん、大丈夫だよ。ねぇね。ねぇね、誰にも見つからなかった?大丈夫?」
「嗚呼、大丈夫。最近は村人は全く見かけなくなったから。だから捜しやすくなっているよ。」
「そっか。ゲホゲホゲホ。」
「ティア!大丈夫か!?」
「うっゲホゲホ。だっ大丈夫。」
少女の声の方が咳き込み、女性が心配するように声を掛けているが、この咳大丈夫じゃない!
魔素を吸い込み、体に影響がでている!
このままじゃ、この子死んじゃう!
慌てて茂みから出れば、目の前に居るのは咳き込む少女とその少女を覗き込むように見る真っ黒い魔獣。
「えっ?」
「なっ!!」