おまけが出戻りしました。
あなたは急に異世界に送られれば何を考えますか?
喜びますか?
驚きますか?
悲しみますか?
それとも…。
何にも考えられなくなりますか?
私は、頭が真っ白になりました。
でも涙は流れるもので。
嗚呼…嗚呼…神様。
私を元の世界に戻して。
「きゃああああああー!!」
愛しい女性の悲鳴が空気を振るわせる。
愛しい女性の目の前には、鋭い牙が迫る。
嗚呼、間に合わない。
「スミレエエエエエ!!!」
一生懸命手を伸ばすが、届かない。
嗚呼、嗚呼お願いだ。
やめてくれ。
お願いだ、スミレを傷つけないでくれ!
どうか、助けてくれ!
そう祈った。
神に。
「澪ッ!」
「了」
目の前に黒い天使が舞い降りた。
そう舞い降りたのだ。
ガキンッと大きな音が空間に響く。
「御主人の名により、あなたを裁判します。」
「えっ。」
「邪魔。」
「えっ。ちょっ。」
黒き天使はスミレを見つめて、素早く放り投げた。
って、投げた!?
「きゃあああ!」
「よっと。」
空に上がったスミレを受け止めるために走り出そうとすれば、その前に誰かに受け止められる。
見たことがない男。
見たことがない衣服を身に纏った男がスミレを受け止めていた。
「はっはっは!悪いな。俺の宝玉様は機嫌が少し悪いらしい。」
「えっ、あっ…。」
スミレは顔は赤いがなんとか無事なようだ。
男に抱きとめられていることは気にくわないが、無事なだけマシだと思って、さっきの鋭い牙を持つ魔獣を見る。
魔獣の前には先ほどの黒い天使。
いや、艶やかな長い黒髪を揺らし、4メートルほどの魔獣からしたら小さな少女が2本の剣を両手に構えて立っている。
「邪魔物もなくなりました。さぁ、始めましょう。」
目の前の少女はにっこりと笑う。髪がぶわりと風で舞い上がり、今まで髪で隠れていた目がのぞく。
その瞳は、右目は朱く、左目は蒼く輝いていた。
「あなたは正義かそれとも悪か?」
少女は一瞬グッと屈み、すぐに4メートルほどの魔獣の上に飛び上がる。
「judgment」
2本の剣は、魔獣を頭から真っ二つに切り裂いた。
吹き出す血しぶき。
崩れる魔獣だったもの。
ぐしゃっと嫌な音。
そして、少女の姿が見える。
嗚呼、この顔は。
「レッ…「澪!」」
少女の名前が異国の衣服を纏った男から呼ばれる。
やはりそうだ。
そうなのだ。
少女は、彼女は。
「お久しぶりですね。皆様。」
「なんだ、澪。コイツらは知り合いか。」
「えぇ…。知ってはいますね。といっても、その程度ですが。」
「レイ…。」
「あら、私の名前を覚えていただけていたのですか?」
彼女はまっすぐに私を見る。
その目は冷たく、恐ろしさを感じるほどの視線だ。
いや、この目線も当然だろう。
だって、私達は、俺たちは、彼女を。
「覚えていただかなくても良かったのに。」
「・・・あっ。」
「以前のように、ゴミでもクズでも、お呼びくださったら良いのに。」
そうだ、俺たちは彼女をそう呼んでいたのだ。
役立たずな異世界人と。
スミレのおまけの異世界人と。
そうなんの役にも立たない足手まといと。
「ねぇ?高貴な聖女様達?」
足手まといと暴言を吐かれ、時には暴力まで振るわれていた少女。
弱く、怯えた様子でこちら伺っていた少女は。
今、俺たちを冷たく見て、笑う。
「死んでいなくてすみませんね?」