第97話
ウチが何故、余裕でいられるのか?
それはウチの事情を知ってる友人から問い掛けられた言葉。
あの時は色々とね、なんて曖昧に答えたけれど、本当に言いたかったのはライが好きであるからこそ、何事も受け入れるべきだ、と言う考えを根底として物事を見ているからだった。
ウチにとっての好意とは良し悪し含め、それを受け止められるかだと感じている。
ライは優しい。
でも優しすぎるから、誰もがライを頼りとして、依存して、支えとして利用しようと企てる輩が存在せざるを得なくもなってる。
ライは人を嫌う事が出来ない。
それは幼少期に偶々見てしまったドロドロの昼ドラがトラウマになったからだ。
喧嘩を酷く嫌い、仲違いを恐れ、何より孤独になるのが怖かった。
だからこそ、ウチを……桃っちも助けたのは必然だったのかもしれない。
ウチが夜遅く帰って来た所で家は静まり返り、テーブルには置き手紙とお金だけ置かれており、人の気配は一切感じられなかった。
電化製品の唸る音だけが静けさの中鳴り続け、置き手紙の内容は何時もの如く、仕事に行かなければならないので夕飯は買って食べるように、とだけ書かれていた。
ウチの暮らしはそれなりに裕福かもしれない。
庭付きの一軒家に一高校生がバイトもせず化粧を施し、家にはつい最近の電化製品はあり、なに不自由なく生活出来る。
それなのに、ウチの心は満たされなかった。
お金を財布にしまい、夜にも関わらず家の掃除を始める。
ウチの両親は働きづめで家事をする暇がとてつもなく少ない。
だからこその高給取りなのかもしれないが、ウチ以外はほとんど家に居ないのだから真新しいままで、そりゃあ家に帰るなり直ぐ様寝室へと向かい、それっきり出てこなくなるのだから、ウチに興味が湧かなくなるのも当然かもしれない。
こうして家中をキレイにしても、当たり前の様に思われて正直辞めてしまいたいと思った事もあるが、ウチが居る証が無くなってしまう為、ぐっと堪え今も効率的に掃除を捗らせた。
下着は洗濯ネットに入れ、色落ちしやすいものとを分け洗濯機に入れる。
ウチはライとあーだこーだしたい願望は無かった。
ただ、ウチをきちんと見てくれればいい。
相手してくれればいい。
それだけで良かった。
両親はウチの事を透明人間と思ってしまっているのか、いくら派手に化粧しても、髪を染めても反応は薄かった。
ゴミ箱からゴミ袋を取り出し、ちゃんと分別されているかを確認し、袋を入れ替える。
ただ、両親に興味を示されたいが為に派手になっていった訳ではない。
それはライの人の顔を覚えるのが苦手なのが主な理由であり、ライが一目で分かる様にと派手になったのだ。
だからこそ、厄災高校の変わった校則に目を付け必死に勉学に励んだ。
ライは見た目では靡かない。
それ故にどんなに派手で周りから浮いた存在でもライはウチの相手をしてくれる。
一通りの掃除をし終える間に今日の出来事、そしてライとの関わりを考えるのがウチの日課となっていた。
そして、気持ちを落ち着かせた所で各教科の復習を始める。
ライに気付かれたい為に。
ライと居たいが為に。




