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それ、ホントに僕ですか?  作者: 海々深々魅々美
穏やかに柔らかに
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第96話

「あの…僕…仕事中なんだけど…。」


四人の視線が集中するとどうにも居たたまれなさを覚え、足早に立ち去ろうとする手前で朝美は後ろから彼の肩を抱き、退路を断った。


「指名料、一人千円ね。あ、美夜ちゃんはお金要らないからね。」


「怪しげな商売しないでもらえます?それに三人とも当然の様に出さないで。」


不思議に思う事もなく、三人の躊躇わず千円を取り出す姿に雷太は頭が痛くなった。


更には美夜までもが恐る恐る千円を出したからにはいよいよもって良からぬ空気が立ち込める。


「それじゃあ、ごゆっくり。雷太君は四千円分、しっかり奉仕するんだよ。」


何故、バイト先で身売りされなければならないのか、疑問は湧き出るばかりだが、この際、休憩時間と考え割り切る事で何とか納得させる事にした。


あまりこの給仕姿を見せた事がないからか、桃は頻りに写真を撮り、水華は物珍しげに視線を上下させる。


「この商売…見える。」


捨て台詞として出た言葉に彼は不安を覚え、振り向いた先では朝美が真面目な顔をして思案を膨らませているのだから更なる戦慄が走った。


「コホン。」


わざとらしく咳をして、水華は一度顔を引き締め、皆が知りたい事を勿体ぶらずに質問する。


「雷太ぁ、単刀直入にぃ、聞くけどぉ、美夜があたしと仲良くしてるってぇ、聞かされた時、美夜の事ぉ嫌いになったのぉ?」


そうして再び雷太に視線は集まり、雷太は少し言いあぐねた様子で反応に困っていると、美夜はやはりと、嫌われたのだと勘違いし、机に突っ伏し声を押し殺しながら泣き始めた。


「ほらね。やっぱりらい君は栗林先輩の事、嫌いになったんだよ。」


「いや、違うって!ほら!美夜さん、泣かないで下さい。全然嫌ってないですから。桃も余計な事言わないの。」


「だって、苦笑いしてたじゃん。それって……。」


また事態を悪くさせようとする桃の口を手で押さえながら、雷太は美夜に優しく話し掛ける。


「美夜さん。落ち着いて聞いて下さいね。美夜さんの事、嫌いになったりしませんよ。ただ、もっと早く仲直り出来てれば、楽しい中学校生活を送れたんじゃないのかな、と思いまして…そう思い始めたら、僕の力なんて大した事無かったって思い知らされて、ちょっと自己嫌悪しちゃって…、だから美夜さんはなにも気にしないで良いんですよ。」


「へぇ、そうだったんだぁ。良かったねぇ、美夜ぁ。やっぱり、嫌われてぇ無かったよぉ。」


「全然良くないよ!」


泣き腫らした顔で美夜は水華の言葉を否定した。


「私は雷太君と居られただけで充分楽しかったんだよ。それなのに自分の事、卑下しちゃったら私はどうなるの?惨めでつまらなくて面倒くさい女の子だったの?そんな、気遣い要らないよ…私はただ、褒めて貰いたくて……頑張った姿を見て欲しくて……。」


「…ご免なさい、美夜さん。それに気付けなくて。」


そう言いながら、桃の口を押さえていた手をほどくと、ゆっくり美夜へと近寄り、あの頃の様に髪を撫で下ろす。


雷太の隠したい過去。


それはとびきり美夜に甘々な対応で勇気付けていた日々。


彼女は常に不安に苛まれていた。


だからこそ、彼女の要求には出来るだけ応えてきた。


「美夜さんはホントにがんばり屋さんですね。いじめっこを許して友達になるなんて、誰だって出来る事じゃないですよ。」


「うん。うん。」


雷太に撫でられる度、甘い言葉を掛けられる程、美夜の顔色は赤らみ、反応は幼くなっていく。


「ズルい。」


不服に満ちた表情で桃は愚痴をこぼした。


「私にはそんな事、全然してくれないのに栗林先輩だけ特別って、えこひいき凄くない?私だっていくつもの困難を乗り越えてきたのに頑張ったねの一言もないよ。」


ねえ?と、残る二人に賛同を求めようと見回せば、水華も李も嫉妬に満ちた目で美夜を見詰めていた。


なんだ、と桃は一抹の安堵を覚えた。


あんなに余裕をかましているが蓋を開ければ、そこにはきちんと嫉妬と欲望が二人にも確実に内包されている事に気付けたからだった。

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