第95話
「なにぃ、ニヤニヤ笑ってるのぉ?」
対角線上に座り、さも達観したようにほくそ笑む李に水華は口調はノロノロとしているが、その苛立ちは見てとれる程、彼女のその態度に眉間にシワを寄せ、前のめりに訊ねた。
「別に…話し合いした所で諦める様な性格してないじゃないですか、ウチらって…だから、なんの女子会なのかなって。」
そう鼻で笑いながら、テラスで賑わう客を見ながらアイスカフェラテをちびちびと飲む。
桃は相変わらず美夜を睨み、美夜はこの殺伐とした空気に馴染めないのか、乾いた愛想笑いをして水華を宥めていた。
残念ながら未来は特待生であるが故に、陸上に勤しまなければならず出席出来なかった。
それでも、帰る瀬戸際まで自身の勇姿を見て欲しいと桃にすがり付いてはいた。
「今日こそは本当にらい君から手を引いて貰いたくて集まったんですから。栗林先輩と瓜南先輩は特にです。」
重たい口を開いた桃はそう前置きをした後、美夜が良かれと思ってした行為がいかに雷太を傷付ける結果となったかを話した。
「…………」
話が進むにつれ、美夜のひきつった笑顔は徐々に暗くなり、最後には俯きながら涙まで流していた。
「…これで栗林先輩がらい君を傷付けたと分かってくれますね?まあ、泣いてるって事は心当たりはあるようですし、悔いてもいると判断出来ますしね。」
「…そっか。」
李にとっては聞くに堪えず、途中から携帯電話を弄りだし、水華は一言一句見逃さないようノートに走り書きをしていた。
「そうですよ。栗林先輩の身勝手な行動がらい君を落ち込ませて、傷付けて、私への返事も空返事になったんですから。」
「ねぇ、美夜ちゃん?だったよねぇ?そのさぁ、あたしが美夜を苛めてたのは事実だしぃ、謝ってぇ許して貰ったのもぉ、事実なんだよぉ。だからぁ、言い方は悪いけどぉチャラになった訳じゃん?」
「確かに言い方は悪いですけどね。」
「じゃあ、雷太はぁ、何に対して傷付いたの?」
あまりの要領の悪さに桃は苛立ち気味に両手で机を勢い良く叩いた。
ガラスのコップが一瞬浮く程の力強さに店内は静まり返り、その後にヒソヒソとこちらを窺いながら話す声に美夜は恥ずかしそうに顔を赤く染め、出来るだけ目立たないようにと体を丸める。
「だから、さっきから言ってるじゃないですか。栗林先輩とあなた、瓜南先輩が仲良くしてるのがらい君にとっては悲しい事なんです。憎んでるんじゃないんですか?栗林先輩は。」
「…私は寧ろ、感謝してると言うか…水華ちゃんに苛められてたから雷太君と出会えた訳だし……。」
もじもじと照れ臭く話す美夜と根底から覆された桃をどや顔で見つめる水華。
悔しそうに顔を歪め、堂々巡りの話し合いに苛立ちの隠せない桃はとうとう口をつぐみ、思い通りに行かない展開に体を震わせていた。
「だったら、ライに聞いた方が早いんじゃないの?」
こうして訪れた沈黙を破ったのは今まで静観していた李だった。
彼女は始めから解決策を持っていたのだ。
だからこそ、桃がでしゃばり雷太を思って行動したのは良いもののグダグダと埒の開かない状態になるのは分かりきった事であった為に何も話さず、ただ笑って聞いていた。
「なんで最初に言わないのよ。」
必死に授業中も美夜や水華を説き伏せてやろうとあらゆる想定を踏まえて考えていたものが李の一言で終わってしまったが故に桃は急に肩の力が抜け、張り詰めていたものが弾けたのか弱々しく言いはなった。




