第93話
「どうしよう?雷太君に嫌われたのかな?」
今まで拒む事の無かった雷太が美夜を退かせた。
それだけで彼女にとって大事らしく今日も彼と昼食を共にする予定であったが、もし嫌われたらと考えると足はすくみ、気持ちは沈んでいくばかりで。
一方で水華は満悦と彼女の不安を耳にし、陽気に背中を叩き励ましの言葉を掛けた。
「大丈夫だってぇ。雷太はぁ、美夜の事、嫌ってないよぉ。」
「でも、あんな突き放す様な言い方…初めてだよ。一瞬で嫌われた…自分の力で問題を解決したのに褒めてくれる所か、距離置かれて……頑張ったのに…水華ちゃんの事、許したのに…何が駄目なの?何に怒ったの?」
オカルト雑誌を力強く抱き締め、悲しく唸り声を上げ、必死に目に溜まる涙を堪え、震える唇が悲壮感を助長させる。
「うんうん、美夜は頑張ったよねぇ。あたしの事、許してくれたのにねぇ。」
よしよしと、肩まで震え俯く出す美夜の頭を優しく撫でる。
しかし、美夜がこうして自らドン底に落ちていく様を彼女は密かにほくそ笑み、心中はひたすらに早く絶望に落ちていけと煽り立てていた。
「何が原因だろう?私かな?水華ちゃんかな?それとも雷太君?若しくは悪影響を及ぼす桃…ちゃんかな?誰にせよ、早急に対処しないと雷太君の溝は深くなる一方だよね?」
散々水華に虐められてきた弊害が行動に妨げをきたした。
仲を重複したいと願い、考えをさ迷わせても嫌われていたら聞き入れて貰えないかもと結局、行動に移せない。
全てを後ろ向きに考え、これ以上自身が傷付かない様にと抑制が自然と働いた。
彼女にとってかけがえの無い、数少ない人との繋がりを良い思い出として残したく、頭は防衛を選ぶ。
「でも、どうしよう?何かお詫びの品とか欲しいかな?謝罪文も用意しないと……うう、言葉遣いに気をつけなきゃ…全然分かんないよ。どうしたら良いんだろう?」
その結果がこうして不安を募らせるだけ募らせ、後は放置し、自ら殻を閉じた。
分からない疑問に自分が推測する答えを導き出せない美夜はどうしていいかも分からず、ただオロオロと困り果て、頻りに水華を見ては、早く助け船が来ないだろうかと目が訴え掛ける。
更に助けを求められないのも美夜の性質であった。
「大丈夫だよぉ。美夜はぁ、嫌われてないよぉ。ただ、心配ならぁ、あたしに任せといてぇ。」
それを逆手に水華は徐々に自分の都合良く、美夜を貶めていく。
知らぬ間に彼女は自分の意志が無くなりつつある事に気付かないまま、水華の言うことを素直に聞いてしまっていた。




