第91話
「ねえ、雷太ぁ、一緒にゴハン食べない~?」
彼女は懲りもせず再び雷太の元へと赴き、まさかの食事の誘いに彼の頭の中は疑問で満ちていながらも顔付きは怪訝としていた。
「何であなたと行かなきゃならないんですか、お断りします。」
授業で使った教科書やノートの類いを机の中へと片付ける雷太を水華はなめ回すように覗き込み、へらっと軽くにやける。
「もう仲直りしたじゃんかぁ。だから雷太もぉ、あたしと仲良くしようよぉ。」
「美夜さんは許しても僕は許せないです、帰って下さい。」
頑として受け入れない雷太の気持ちを嘲笑うかの様な、その薄気味悪い笑顔を見せ、ふと彼の耳元で囁く。
「それとも昔みたいに美夜を苛める?そんな関係に戻る?」
それを言われた瞬間に彼の目付きは鋭く水華を突き刺し、言葉には出さずともハッキリと苛立っているのが分かる程、周囲に緊張感が走った。
そんな眼差しで睨まれているにも関わらず水華は満面の笑みで雷太と視線を合わせた。
「はああ、懐かしいなぁ、その目。やっぱりぃ、雷太はそうでなくちゃね。うんうん。」
そう言いつつ、水華はゆっくりと雷太の髪を撫でようと手を伸ばす。
髪に触れる寸前で雷太はその手を払い除けた。
「なにするんですか?」
雷太にはその真意が掴めなかった。
中学生の頃の印象が強いせいで、今の水華の態度や言動が本当に同一人物なのかと疑いたくなる程、昔の面影は消え失せていたからだった。
「んふふ。」
困惑とした視線と気味悪がり距離を置く雷太に水華は下品な笑い声で尚も彼を見つめ続ける。
「これ以上、らい君に近付くのは止めて下さい。」
そこに助け船を出したのが桃だった。
雷太の時とは違い、桃に話し掛けられた瞬間に表情は固くなり、貼り付けた様な笑みをする。
「…!そっか!」
水華は忌々しく睨む桃の姿を目の当たりにすると、何か良からぬ事を閃いたのか、雷太へと視線を下ろし、ある提案をする。
「じゃあ、この子もいじめれば、雷太はまたあたしを見てくれるように、なるんだねぇ?」
「…え?」
「だからぁ、この子と美夜をまたぁ、苛めたらぁ、雷太はあたしを見てくれるよねってぇ、言ったんだよぉ。」
到底理解出来ないその提案の内に潜む暗闇に、雷太は不安を募らせ言い得ぬ恐怖が身を固める。
蛇に睨まれた蛙の様に身動ぎ一つ取れず、ただ水華を見つめていると彼女は獲物にありつけたと唇から割って出てくる舌が不気味に上唇を舐めた。
「センパイ、ライが怖がってるんでお引き取り願えますか?」
彼の目を遮る様に手で覆い隠し、李は彼の後ろから落ち着いた声色で水華に言った。
「センパイの気持ちは分かりましたが、もう手遅れなんで誰か別の人にしてもらえますか?」
尚も引き下がらない水華に更に追い打ちをかけるも彼女は頑として動かない。
「それは…無理だよねぇ?だってさ、あなたも分かってるんでしょぅ?」
水華の柔らかく開かれた瞳の奥に、蠢く欲望が李を捉えた。
二人にだけ共有出来る気持ちがあるのだろう。
だからこそ、雷太を手放せない状況に自ら陥ったのかもしれない。




