第9話
「ここはさ、皆でアルバムを持ち寄って雷太の記憶を思い出させるってのはどう?」
流はハンバーグを頬張りながら右手に持ったナイフを二人に指し向ける。
「それ。良いかも。」
桃は一度食べるのを止め、食い気味に流の提案に乗り、顎の下で斜めに合掌し、空中を見ながら「素敵」と呟く。
「勿論、らい君の今までの成長記録なんかも見せてくれるんでしょ?」
嬉しさで輝く瞳には純粋さが際立っており、機嫌良くフォークでサラダを突き刺し踊らせながら口に入れた。
「僕は月末辺りじゃないと取りに行けないよ。」
「そうだった。雷太、独り暮らし始めたんだっけな。」
雷太に関して新たな情報が出た瞬間、桃の目が光る様に何か妙案を閃いた。
それは視界の端でも分かる程、彼女の反応は著しい。
「偶然だな~。私も実は独り暮らしなんだよね~。」
桃は探りを入れているのかチラチラと雷太を垣間見て、この先を言葉を選んでいた。
「らい君のお家ってどこ?」
「ところで、桃は僕のどこが好きなの?」
桃には僕関連の話題、それも好き嫌いの類いの話を好む傾向にあると考え、僕は敢えて地雷を踏む事にした。
ただ、もしかしたら記憶を思い出す手掛かりはあるかもしれない。
「え~、言わせたいの~?なんか照れちゃうから嫌だな~。恥ずかしいな~。」
両頬に手をあてがい捩ろぐ姿は言葉に反し嬉しそうで、逆にこちらが辱しめを受ける程ののろけ話を聞かされそうで雷太は笑みがひきつっていた。
「いや、嫌な云わなくて良いよ。」
「ううん。言いたいの。言わせて。聞いて欲しいの。寧ろ、毎日枕元で囁きたいの。」
僕が言うのも何だが、煽った言い方をして少し後悔した。
まるで他人に恋人とのイチャイチャを見せ付ける彼氏みたいな感じがして、嫌悪感さえ自分に抱く。
「まだ久し振りに会ったばっかりだから、長々と話すのもあれだし、簡単にまとめて言えば、性格から顔から体から、もう全部が好き。」
凛々しい表情のキメ顔をバッチリ決めて、放った言葉はやはり雷太が恥ずかしくなる位の豪速球。
流石の彼も耳まで赤くし、照れ隠しにとトイレへと逃げ出した。
「雷太も素直になれば良いのに。な、桃ちゃん?」
後ろ姿を見送る桃に投げ掛けた言葉に彼女は微笑み、優しく頭を横に振った。
「らい君のああいう所が好きだから、あのままで良いの。」
桃はサラダを食し、やがて訪れる沈黙に幸せの余韻を噛み締めていた。