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それ、ホントに僕ですか?  作者: 海々深々魅々美
穏やかに柔らかに
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第88話

未来との出会いは雷太らの日常をガラリと変えてしまう程、衝撃的であり、しかし桃にしてみれば鬱陶しくまとわりつく彼女に辟易していた。


「らい君…未来ちゃんをどうにかしてよ?あれから、学校で全然ラブラブ出来なくなっちゃったじゃん。あ!このだし巻き自信作だから早く食べてみてよ。」


どういう訳か三人で囲む食卓はもうお馴染みの事。


「どうにかって…桃が嫌だって言えば済む話だと思うけど…。…確かに美味しいね。」


これまた決まり事の様に雷太の周りにだけ多い皿の上にはそれぞれ料理は乗せられ、美夜と桃、二人が相反しているかの如く、和と洋とに分けられていた。


だし巻き玉子を頬張った時の桃のしたり顔に美夜は深く嫉妬し、サラダを食べようと刺すフォークの音が荒っぽく響く。


「私、言ったんだよ!でも、そんなの照れ隠しとか。ツンデレとか言って聞いて貰えなくて。良くわかんないけど、荒療治とか何とか言って強引に抱き付いてくるんだよ~。」


引き下がらない二人はとうとう、二人だけのルールと言うものを作ったらしい。


と言うのも確かに彼の周りには料理の品々は有るのだが、それらは全て小皿に盛られ、必ず食べきれる量であるからだ。


始めの頃はお互いが自身の料理でお腹一杯にしてしまおうと画策していたのだが、全て中途半端に残す結果となってしまったのが相当ショックだったらしく、思案の末、今に落ち着いたらしい。


「…それ、桃…ちゃんも同じ事、雷太君にしてるじゃん。」


ぽそりと呟いた言葉は桃を苛立たせるには充分過ぎる程で味噌汁を啜り、そうしてテーブルへと置く動作は忙しなく、反動でテーブルに水玉模様を描く様に飛沫が飛ぶ。


「私のは愛があるからこその行動です。あんな上から目線で素直にさせてやるから抱いてます、みたいな思いではやってません。らい君に愛を伝える行動の一つなんです。」


雷太としてはどちらかが作るようにしてもらった方が助かるのだが、用意してもらってる手前、口に出せなかった。


小皿とは言え流石にお腹は膨れ、尚且つ二人の視線は常に彼の箸の先を注目するのだから、気を遣う。


食欲を満たされた中で精神的な疲労が蓄積されると授業中に訪れる蠱惑な睡魔が易々と彼の瞼を落とし、何度寝落ちした事か。


しかしそれを相談しても『教えるから大丈夫』と一蹴され、食事の改善はこれ以上進まないのだろう、予測が雷太を落ち込ませた。


「でも、雷太君が喜んでなきゃ、そんなの自己中でしかないよ?」


二人が議論を交わす貴重な時間。


校内ではいかに雷太とラブラブであるかのアピールタイムとなり、バイト先でも美夜は従業員では無いにも関わらず、厨房に入り浸りアプローチを掛ける。


その事について姉の朝美や父親に言及するも揃って含み笑いをして誤魔化し、美夜の幸せに緩んだ顔を見て英気を養っているようだ。


「らい君は絶対嬉しいです。だって私の事、可愛いって言ってくれたんですよ。らい君が可愛いって思う女の子に抱き付かれて嬉しいなんて思わなかったら、そんなの変でしかないですよ!」


たまには一人になりたいと桃に頼み、退室してもらった所で今度は大家の美月がお酒片手にタイミング良く現れ、美夜と結婚すれば、様々なメリットがあるかをグダグダと話す。


「雷太君はそんな邪な考えの持ち主じゃないよ。だって、私が抱き付いても一切、反応しないんだから桃…ちゃんだって例外じゃないよ。」


あらゆるタイプの女性に囲まれ、さぞ雷太は嬉しかろうと端から見た男性諸君は考えるかもしれない。


でも、それは上部だけの事。


桃が人目を忍び、雷太の使用した箸を舐めている事も美夜がトイレに行く振りをして、彼の下着を脱衣場から盗んでいる事も、稀に遊びに来る李が彼の布団に潜り込み、何やら蠢いている事も。


そんな雷太の目にしか映らない衝撃的な瞬間を知らないから言える事。


気付かない振りをしてとぼけているのに彼女たちの行動は日増しにエスカレートしていた。


それを言えないのが雷太。


咎められないのが雷太。


彼は今日も答えに苦しむ質問を投げ掛けられた。

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