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第86話

彼女は先頼 未来(さくらい みらい)


雷太同様、名前に『らい』がありややこしい状況が当然生まれるのだが、そこまで計算し尽くす李は補足として、こんな事を言った。


「ウチとライ…雷太だね。が、バラ組。で、桃っちと未来はユリ組に居たわけ。だから、何をどう婉曲したのか桃っちは未来の事を雷太と勘違いした。こう、考えれば納得いかない?」


「全っ然、納得いかない!私は確かに雷太君と結婚の約束をしたの!」


雷太と桃が別の組である事から、出会う回数及び可能性の低さから自ずと未来と約束したと仮定して考えれば丸く収まると説明したのに、それを一蹴し尚も意志を変えない桃に李は呆れ頭を抱えた。


「第一にこんなに女の子女の子してる子を男の子に間違える訳ないでしょ!?」


「…悪いけど、桃ちゃん。僕、結構間違えられてたし、男系家族だから、男っぽく育っちゃったんだよね。」


すかさず反論する出鼻を挫く様に未来は気まずそうに訂正する。


「ぐぬぬ…。」


悔しげに呻き声を上げながらも雷太を盾にして未来の進行を妨げる辺りに、まだ理性は残っているがそれに便乗して彼の体をまさぐるのだから、目の前で未だ嫌悪の視線を向ける未来に油を注いだ。


「おい。女たらしの雷太。お前、昔っからその癖あるよな?まったく、羨ま…けしからん。いい加減一人に絞って桃ちゃんを早く寄越せ。」


そう言いながら、遠回しに桃との仲を切るよう仕向ける未来に桃は腹立たしさが頂点にまで、達してしまったのだろう、一言も喋らず彼女を見る事さえしなくなった。


蚊帳の外になるのは別段構わないのだが、何故自分が加害者側に立たされているのか雷太には一向に見当が付かない。


それもその筈。


「昔話するのも良いけど、ゴメン。未来の事全然思い出せない。ホント、唯一の思い出は李との約束だけだし、流とかも何で仲良くなったのかもいまいち曖昧だし…だから、僕抜きでやってくんないかな?」


「駄目。」


雷太の淡い提案を桃は即座に否定する。


「雷太君が本当のらい君って証明出来るまで、私は未来ちゃんの事をらい君とは認めません。だから、これからも雷太君とは正式なお付き合いをさせて頂きます。」


「……それって、永遠に未来はらい君と認めないって事だし、なにしれっと付き合ってる体で話を進めてんの?」


「はぁ…。」


これは永遠に決着がつかないと気付くやドッと疲れが体にのしかかり、自然とため息が零れた。


空は先程の天気が嘘かの様な快晴となり日射しは余計に暑く感じる。


もんもんと地面から上がる湿気が不快指数を高め、制服は汗と湿気で重たく感じる。


開いた窓の隙間から流れ込んでくる風は生暖かい。


彼女たちは未だに口論を繰り広げている。


記憶に頼り意固地となる桃に理屈や記憶、状況証拠などは通じない。


哲学めいた、雷太はらい君でなければならない、そしてらい君は雷太でなければならないとよく分からない話を盛り込むから更に話はややこしくなった。


「ねえ、桃?さっき、気持ちよくお別れしたよね?」


「そうだね。でも、また素敵な再会を果たしたから結果オーライだよね。」


そう。


何を言おうとぶれないのが桃の強みである。


多少の揺らぎはあるものの、根本として、らい君を愛していると言う土台がしっかりとしている為、決して崩れる事は無い。


例え、崩落しようとも土台は未だに残り続ける。


「第一に私、こんな口の悪い人は好きじゃないから。」


と、衝撃の一言が未来の胸にグサリと刺さり、絶望に今までの威勢は消え失せ黙り、表面張力により目に涙を溜めていた。


「あっ!駄目だよ、らい君。そんな事言ったからって今更、言葉を荒くしたって手遅れだからね。それにらい君だったら、それも有りかも。らい君の背中を追いかける生活…ふふっ。言葉尻を荒くしながらも私を導いてくれて、愛の鞭を打ってくれて…ぐふっ。スッゴク憧れちゃう。でも、エッチの時には優しくしてくれるとかのギャップがあったりとかしちゃうと、も~最高だよね~?」


どうやら、桃の妄想は二歩も三歩も進んでいるらしく、一人はしゃぎながら、敵である事も忘れ、彼女らに同意を求める。


「…もう晴れた事だし帰るね。バイトもあるし。」


何かを諦めた雷太は抑揚の無い声でそう言い残し、教室へと歩いていく。


「あ!待ってらい君。私も帰る。」


夢見心地であった桃だが彼の言葉に慌てて後ろを付いて行こうとするのだが、未来は即座に抑え込んだ。


「らい君。私も帰るからね~。ちゃんと待っててよ~。」


「まあまあ、桃ちゃん。積もる話もある事だし。」


未来は桃の首筋に鼻を押し当て、存分に匂いを堪能し、今まで桃が雷太にしてきた事と同様に体をまさぐった。


そのスキンシップと言う建前のイヤらしい手付きにゾワゾワと鳥肌を立たせ、体を強張らせた桃はまだ近くで見物してる李に目で助けを求めた。


李はニコリと笑い、快活に親指を立て、無言のままその場を去って行く。


「ちょっ、ちょっと、李?らい君?……誰でもいいから助けてよ~。」


外は晴れている。


この機会を逃すまいと残っていた生徒は既に校舎から出ていってしまった。


そうして、桃の切実な叫びはむしむしとした廊下に響き渡るだけだった。

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