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第83話

「ねえ、どこまで連れてく気な訳?」


特に後ろを振り向くでもなく、黙々と目的地まで歩く李の後ろ姿に見飽きたのか桃は重く閉ざされた口を開いた。


既に校舎と隣接した第二校舎まで足を運んでも未だに彼女の歩く速度は変わらない。


「こっちは特舎って呼ばれてるみたいで小さい頃から賞状を貰ってる人とかお偉いさんから推薦を貰ってる人とか、そういう突出した人が集まる所なんだって。」


答えの代わりとしてこの第二校舎の説明をする李を横目で不満気に見つめ、その勿体ぶった態度が気に食わず嫌味でも言って、この燻る気持ちをいくらでも発散させようとした。


「…そうなんだ~。頭良いだけじゃ、こっちに来れないんだね。」


そんな桃の棘のある言葉をもろともせず、李はあっけらかんと言い返す。


「可愛いだけでも、こっちには来れないからね。ホンットの選りすぐりなんじゃない?」


からかいがいの無さに桃はわざとらしくため息を吐き、雨水で不鮮明な窓越しに雷太の居る教室を眺めた。


本物のらい君であればとても喜ばしい事である。


特待生として将来有望な人生を歩むであろう、厳選された人の中にらい君がいるのだから、桃はもっと喜んでも良い筈なのに、心に棘が刺さってるかの様にチクチクとスッキリしない感覚がべったりと張り付いていた。


「ねえ、やっぱり……。」


躊躇いは生じ、引き返そうと声を掛けようとすると丁度良く李は立ち止まり、ようやく後ろを振り向いたと思えば、ニコリと笑い、指差す先に『スポーツ科』と書かれたプレートが桃の目に止まる。


「覚悟は良い?」


薄暗く曇る表情の桃に念を押すべく発した声色は後悔を煽る様な、そんな嘲笑おうと茶化した具合で、彼女は余計に今一歩、足を踏み出せず、かといって否定も出来ない。


雨音に混じり、教室から漏れる楽しげな話し声が聞こえる度にもう、自分が入り込む余地が無いのではないだろうかと疎外感は膨れ、本人に会いたいと願った自分を諌めたいと感じてしまった。


「………。」


言葉も出せず、首を動かす事も出来ない桃を尻目に李は勝ち誇った笑みを浮かべ、勝手に教室の扉を開いた。


「やほー。らい居る?」


「うわ、懐かしいなその呼び方。」


一人の生徒が昔を思い返しながら、李の方へと顔を向けるとその変貌ぶりに思わず、吹き出し、面白半分に李をジロジロと見つめ、ニヤニヤと笑った。


「何!?その格好!?」


「あれ、この姿になってから会ってないっけ?」


らいと気さくに話す李の後ろで桃は言葉を失っていた。


「で?大事な用って?もしかして告白?」


「違う違う。用があるのはウチじゃなくて…。」


ある程度のお喋りの後でやっと本題に入るのだが、らいは気軽な性格なのか深刻そうな態度は一切見せず、堂々としていた。


そんならいにサプライズを用意していた李は言葉の代わりに振り返り、ドアの端に隠れながら、室内を覗く桃の姿をらいに見せる。


驚いていたのは何も桃だけではなく、らいもまた驚きの色を隠せず、途端に立ち上がり、ゆっくりと彼女に近付いた。


「もしかして、桃…ちゃん?」


「そうだけど。えっと、らい…君?」


願わずにはいられなかった夢の瞬間に、桃はまさか夢なのではと疑いたくなった。


「久し振り!!何年ぶり!?子供の頃から可愛かったけど、今はもっとだね。嬉しい~!」


らいの大声にびくつきながら、桃はその近すぎる距離感に戸惑いながら苦笑いを浮かべ、挙動不審に視線をさ迷わせた。

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