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第82話

「雷太君。あれで良かったの?」


李と桃を見送った後で美夜はすかさず雷太の隣の席へと座り、どうにも納得いかないのか彼に対し不服で眉間にシワを寄せた。


「あれって?」


「桃…ちゃんのあの態度だよ。雷太君がそうじゃないって分かった途端に冷たい態度して、今まで雷太君にどれだけ迷惑かけてたか分かってないのかな。」


彼女が歩いていった方向に視線を置き、苛立ち加減に頬を膨らませ、唇を尖らせる。


「雷太君もハッキリ言わないと駄目だよ。だから、つけあがっちゃうんだから。」


美夜は苦笑いを浮かべ誤魔化そうとする雷太の手を握り、先輩らしさを振る舞い、いつになく真剣な表情をした。


「元々、僕の記憶力に問題があった訳ですから、僕にも一因はありますし…五分五分ですよ。」


「雷太君は隙が有り過ぎるよ。だから…。」


「だから?」


美夜のその先の言葉を聞こうとした時、瞬く光と共に轟音を引き連れ、弾けた音が直ぐ近くで聞こえ、あまりの大音量に悲鳴があちこちから聞こえる。


明かりの消えた薄暗さの中、途端に静まり返る室内では見なくとも音だけで雨足の強さが分かってしまう程の音が再び聞こえ始めた。


「…また降ってきたね。」


「ですね。」


きゅっと雷太の手を握る美夜の顔は微かに赤らみ、何かを言おうと口を開くも言葉は出なかった。


廊下を慌てて走る教師の後を未だに残っている生徒達が後を追う。


この豪雨が様々な凶事を招いている。


広報は未だに警戒を促しているようだ。


「心配だから、僕らもらい君の確認に行きませんか?」


運命が雷太に何か伝えようとしているのでは、等と考えているうちに二人の事がふと気になってしまった。


「……どうして?」


少しの沈黙の後に訪れた言葉はやけに冷たく、美夜から出たと思えない程、抑揚のない声色だった。


「なんでって…そりゃあ…。」


「もう、李は答えを知ってたんでしょ?それに桃も雷太君にお別れの言葉を言ったんだから、これ以上深入りする必要は無いんじゃないかな?寧ろ、桃の気持ちをかき乱さないように心掛けないと。」


彼女の喋り方の異変に雷太は恐怖を感じた。


「確かに雷太君も悪いかもしれないよ。でも、それにつけこむ桃はもっと悪いんじゃないかな。」


苛められ弱気な性格であった彼女からは想像も出来ない冷酷な眼差しに彼は反論したい気持ちを飲み込んだ。


今の美夜に何を言っても、それは言い訳だと言い返されそうな、そうした頑なな考えで以て突き動かされている気がした。


「雷太君。今は目の前の私に集中してよ。」


彼の俯く顔を美夜は両手で無理矢理上げ、微かに煌めく瞳が彼を出迎える。


彼女は答えを待っている。


美夜にとってはこれで全てが解決したと思っているみたいだが雷太にとっては通過点でしかないような気がした。


そうした考えの違いが徐々に溝を深くしていき、齟齬は正せぬまま美夜の心の暴走は止まらなくなる。


「桃…は昔の彼が好きであって、今の彼は好きじゃないんだよ?その意味分かる?」


「…分からないです。」


「彼女は昔の彼を雷太君に当て嵌めた疑似恋愛をしてただけであって、雷太君を好きじゃないって事。結局、容姿が似てれば誰だって良かったんだよ。でも、私は違うよ。」


ずっと雨が降っているせいか、室内は肌寒くなり、湿気が体を湿らせているのか、芯から冷えていくような感覚がした。


美夜の想いは燃え盛る炎の様に熱く伝わり、輝き始める瞳は太陽の如き眩しさを放ち、握られた両手を圧迫する力が彼女の気持ちの強さを表している。


感情表現の下手な彼女は暴走してしまいがち。


それは美夜の姉にも言える事。


抑制された想いが一気に弾ければ、誰だって感情的になる。


しかし、美夜や朝美はより顕著であり、短時間では終わらない。


教室には既に彼ら二人しか居なかった。


雨音が周囲の音をかき消し、まるで二人以外、誰も居ないのではと錯覚してしまう程、美夜の声だけは透き通って聞こえてきた。

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