第81話
二つの写真に共通している事は卒園式であり、テディベアを抱えている事だと李は補足した後、歪に笑いながら指で二人の男の子を指差し、何も言わず目だけで見比べるようにと視線を落とした。
「……あっ!」
その違いにいち早く気付いたのは遠目から覗いていた美夜だった。
「なによ!?」
その勿体ぶった李の態度と何も言わず一人で驚く美夜の姿に桃は苛立ちながら、美夜に声を張り上げ、早く教えろとばかりに睨みつける。
「いや、あの…よくよく見ると制服に付いてるバッジとか細かい部分が違うなって…思って…。」
桃にすごまれおどおどとその違いを遠くから指で指し示し、その度に彼女は写真に顔を寄せた。
桃が違いに気付く度に雨足は遠退く様に窓に打ち付ける音は弱くなっていく。
「ま。ミヤセンも言ってた様に細かい部分の違いはあるけど、大きな部分でもテディベアの色違いだとか、靴下の色違いとかあるよね~。」
感じた違和感はこれだったのかと雷太は徐々に蟠っていた気持ちに晴れ間はさし、そして大きな疑問だけが残った。
「じゃあ、どっちが僕なの?」
その質問を投げ掛けた時、美夜と桃は彼の顔を一瞥した後、揃って李へと視線を向ける。
「良いよ。もう連絡してるし会いに行こっか?それでどっちがライか分かるよ。」
「え?」
あっけらかんと答え、直ぐ様立ち上がる李に驚いたのは桃の方だった。
「だから、桃のらい君に会わせたげるって言ったの。」
「ここの生徒なの?」
「そだよー。知らなかった……よね。」
その事実に桃はばつの悪そうな表情で雷太を何度も垣間見て、どう対応すれば良いのか分からず、口元を手で隠したり、耳たぶを触ったりと落ち着かず、そわそわとしていた。
「僕の事は気にしないで良いから、会ってきなよ。」
「…らい君。」
それはどちらに向けて呟かれた言葉か。
桃は髪をすき、深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。
「良し。じゃ…じゃあ、行って来るね。ら、雷太君。今まで、ありがとう。それ、と、迷惑掛けてごめんなさい。」
本物のらい君が居ると知った桃は急に雷太との距離を取った。
それは良いことなのか悪いことなのかは分からない。
それでも、彼は嫌悪感は抱かなかった。
「こちらこそ、色々ありがとうね。」
桃にとっての生きる希望は見つかったのだから、それで充分だと感じたからだ。
確かに勘違いも甚だしかったが実害は無いに等しいのだから、それをどうこう言う筋合いは無いのだろうと雷太は後々、そう結論付けた。
ただ今は、ようやく彼女の重荷から解き放たれるのだなと、安堵の余韻に浸っていた。




