第79話
お腹まで響く衝撃音に雷太の煮詰まっていた頭は瞬時に掻き消され、ホッと胸を撫で下ろすものの後味の悪さだけは未だに残り、集中力はここで途切れてしまった。
そうしてふと視線を上げた時、桃が見つめていた写真、李と自分とのツーショットに目が止まった。
凝り固まった考えが一時、頭から離れたせいだろうか、その写真に何かしらの違和感を感じずにはいられないが具体的に言及も出来ず、桃がページを捲る事で一緒にその違和感も消えてしまった。
「あの、さ。」
弱々しい声量で美夜は停滞気味なこの検証に新たなスパイスを入れる事により円滑に進むのでは、とある提案をした。
「オカルトチックな話で悪いんだけど、こういう時こそ非常勤の幽子先生に相談したら、どうかな?」
まだ入学して一月も満たない彼らにとって、その教員がどんな人物であるか分からず、美夜以外は皆キョトンとして、お互い顔を見合せる。
この忌之厄災市にとって心霊、妖怪、UFO等の科学で説明しきれない現象は切っても切れない関係にあり、桃のあのピンクゴールドの髪もこの市内だからこそ、信じられる奇病なのだ。
「もしかしたら、雷太君の記憶が蘇るかもしれないよ?」
美夜がオカルトに傾倒しているからこその情報に皆、耳を疑い訝しげに彼女を見つめる中で雷太は一人ニコリと笑い、静かに首を横に振った。
「気遣いありがとうございます。でも大丈夫ですよ、美夜先輩。それで人が死ぬ訳じゃ無いですから。」
「私は死んじゃうよ~。らい君、私は大事な女じゃないの!?」
彼の言葉に即座に反応したのは勿論、桃であり、すがり揺さぶり彼の答えを切望する。
「死なないって。現に思い出せないけど桃は死んでないでしょ?」
「肉体は死ななくても、魂は死んじゃうんだよ~。」
昼食を取ったばかりのお腹には厳しい揺れを感じながら、雷太は彼女を宥めた。
「ほら、僕のアルバムでも見て気を落ち着かせてよ?それとも、もう止める?」
「……見る。」
ようやく落ち着きを取り戻した桃を横目に雷太は最終手段として美夜の案を取り入れるべきなのではないかと考えを巡らせる。
もし、これで結果が出なければ桃が暴走を始めてしまう。
その恐れ故の抑止力として強制的にも思い出さねばならない時がいずれ訪れる事を見越し、ゆっくりと美夜へと振り向き、優しく微笑んだ。
彼女も雷太の意図した事を汲んだのか、携帯電話を弄りメールで相談してみるねと返事をした。
雨は弱まる気配を見せない。
雷太の頭の様に、桃の心の様に吹き荒れ、かき乱し、全てをぐちゃぐちゃに濡らしていく。
李は外の景色を眺め、不敵に微笑む。
そうして見下す視線で彼女を一瞥し、退屈そうに外を眺めた。




