第78話
「じゃ、見なくて良いかな?」
桃の悲痛な叫びでさえ、李は淡々と話を続けた。
その相反した二人の温度差に挟まれながら雷太は既にこの集まりの意味を為さなくなったのではないかと思い始める。
何故なら声を張り上げてまで放った言葉が証拠ではなく、気持ちの問題であると断言してしまったからだ。
「………見る。」
だからこそ、桃の意図を読めずに昔を懐かしむこの時間は彼女にとって単なる目の肥やしなのではとさえ推察してしまう。
「ねえ、桃?もう良いんじゃない?僕と桃が同じ幼稚園に居たのは流のアルバムで分かりきった事だし、自分でもう証拠は無いって言っちゃったじゃん。だから…もう、諦めよ?」
時間稼ぎの様な桃の行動に歯止めを掛けたのは雷太だった。
「何を諦めるの?私は、さ。らい君の全てを知りたいの。確かに彼女と比べて証拠なんて薄っぺらいものかもしれないけど、らい君が思い出してくれればそれだけで充分なんだよ。だから、これは私の為じゃなくて、らい君の為にやってるんだよ。」
桃に反論され、雷太は約束をしていない事を前提に考えていたのだと気付かされた。
「悔しいのも分かってる。根拠が薄くてらい君に迷惑が掛かってるのも分かってる。それでもらい君を知りたい事に変わりは無いよ。」
先程の張り詰めた空気は霧散し、今は朗らかに李のアルバムを拝見し、微かに笑みをこぼしながら雷太に振り向く。
「ほら、彼女もテディベアを持ってるよ。勿論、らい君も持ってる。これね…。」
そう言い掛けた時、李はその先の言葉を奪い取った。
「それは卒園式でやったプレゼントの交換会だよね?桃っち。お互いに仲良い同士だったり好きな人にだったり、そうやってこれからも交流を深めていこうねって言う園長先生の計らいだったんだけど…。ほら、ライって昔から正義感強いって話したでしょ?だからあの頃、皆から交換して、交換してってせがまれてたんだけど覚えてる?」
何故だろうか、約束は覚えているのに出来事を思い出せないのは何か理由があるのだろうか。
「ごめん。何も覚えてないや。」
思い出そうと頭の中をかき回しても、思い出せず良く分からない違和感が凝りとして記憶に蓋をしているようなもどかしい感覚が雷太の気持ちをざわつかせる。
靄が掛かってる程、ぼんやりとしたものではなくごっそりと何かが抜け落ちている感覚に彼はそこで思い出すのを止めてしまった。
「どうしたの?らい君?」
脂汗が額から流れ落ち、湿った空気が余計に気持ち悪さを助長させ、窓を強く打ち付ける雨の音が周囲の音を掻き落とした瞬間、何処かで大きな衝撃音が教室に響いた。
「何!?事故!?」
未だ室内に居た生徒達は野次馬の如く、音のした方へと群がっていく。
誰かが携帯電話でテレビを見ていたのか、ニュースキャスターの声が静まりかえった室内に響いた。
それはこの豪雨が何十年振りの降雨量であるかを切実に伝え、各地が水害を被ると懸念していた。




