第77話
流のアルバムでは確かに同じ保育園にこの4人が居たと言う証拠にはなるものの、桃が雷太と結婚の約束をした決定的な何かを得る事は出来なかった。
しかしながら、桃はそれとは別に彼の幼い頃の素敵な姿を見れて、嬉しそうに流のアルバムから何枚か許可を得て貰っていた。
「ありがと~。流君。大事にするね。」
「いや、別に良いけど。良いとは言ったものの親に怒られるかな…ま、いっか。」
彼のアルバムは結構な虫食い状態となっていたが、桃の喜んでいる表情を見ると、今更返してとは言えず、苦笑いのままアルバムを鞄に詰め込んだ。
「じゃあ、悪いけど俺は先に帰るね。雷太、結果だけは後で教えろよな?」
そう言うと流は一度、窓の外を見て苦虫を噛み潰した様に顔をしかめ、そそくさと教室から出ていく。
午後を跨ぎそうになっても、降り続く雨。
忌之厄災市では大雨、暴風警報が解除されないまま、注意喚起を促す広報が流されているがこの風の音ではまともに聞こえない。
「流ももうちょい考えれば良いのに。」
彼が出ていった後で李は悪気もなく言った。
「携帯とかで情報とか見てから動けば、余計な待ちとかしないで済むのに、ね?」
そう言いながら、李は携帯で交通情報をまとめたサイトにアクセスし、現在の交通機関の状態を皆に見せた。
「ね?今、行った所で駅で待ちぼうけか、代わりのバスは出てるみたいだけど、それも本数が少ないから、結構ぎゅうぎゅうの中で帰らないと行けないから、しんどいと思うよ。」
それを見せられた時、雷太は高校の近くに部屋を借りれる良さを痛感した。
「よし!次はウチの番かな?」
そして李が取り出した物、それは何とも分厚いアルバムとスクラップブック、そして日記帳だった。
「まあ、簡単に説明させてもらうとこれは見ての通り、アルバムだよね。」
そう言いながら、アルバムの表紙を捲るとデカデカと雷太と李のツーショットをハート型に切り、注意書きとしてスクラップブック参照と書かれている。
「で、ウチの母親はこういうのに細かい人だから、スクラップブックに色んな切り抜きだとか、作品とかを纏めたんだよね。」
今度はスクラップブックを開けば、正式な婚姻届に拙い字ではあるが確かに雷太と李の名前が書かれ、拇印まで押してるのだから用意周到である。
「約束は覚えてたけど、ここまでやったっけ?」
「やったよー。なんなら、先生まで呼んで結婚式の真似事だってやったんだから。」
流暢でハッキリと明確な李のプレゼンに桃の顔色は曇るばかりで何も言い返せない程、彼女の記録は非の打ち所が無かった。
「で、最後に日記帳なんだけど、これはウチだけ見るやつだから関係ないけど、その時の出来事とか思った事が書いてるから、この写真はどういう気持ちで撮ってるかとかを認識する為の物ね。」
李が持ってきた物の説明を聞くにつれて、桃の表情は暗く、嫉妬に満ちた眼差しで彼女を見つめ、いかに自分が浅はかで薄いかを蔑まされているようで苛立ちを感じていた。
「桃っちもこれ位、証拠を固めてればライだって困らなかったんじゃない?あ!ほらほら、ライ見てよ!」
桃を気遣っての言葉だったのだろう。
しかし僻んだ桃にとって嫌味にしか聞こえず、そして返事も聞かず雷太へと話題を振るその態度が、そもそも相手にされてないと感じ、桃の頭は恨み辛みと方々に走るあらゆる感情で爆発しそうだった。
「だ、大丈夫?桃…ちゃん?」
端から見ても桃の異変は目についたのか、堪らず美夜は桃に近付き声を掛けながら、肩に触れようとした。
が。
「触らないで!皆でよってたかって、私を卑下してさぞかし気分が良いでしょうね?証拠?そんなもの無くて悪かったわね!私はあんたみたいに小賢しい真似しないで、らい君の言葉だけで充分な女の子だったんだよ!何さ証拠なんて……。」
桃の大声で驚いたのは美夜だけでは無かった。
教室内に未だ残っている生徒や況してや隣のクラスの生徒まで様子見に来るほど、彼女の痛烈な叫びは轟いた。




