第72話
つつかれればつつかれる程、ボロが出てくる。
証拠はないが確信はある。
それでも他人は物的な何かを持っていた方が伝わりやすく、信じやすい。
だったら、愛はどう証明すればいいのだろうか。
目に見えなく、自身に起こる変化を伝えた所で共感はしてもらえるかもしれない。
しかし、それは果たして信じて貰っていると同義なのだろうか。
桃の言動は常に向こう見ずに迷走している様に見えるかもしれない。
だが、彼女にはちゃんと彼の約束を果たそうとする目的の下で動いているのであって、自己中心的と考えられるのは間違いではないだろうかと反論したい。
僅かながらも愛情に則した部分もあるが、それこそ彼が居なければ起こらなかった事なのだから、そうならざるを得なかったのだろう。
けれどもいくら強固な想いであっても一点ばかり突かれたのでは流石の桃も揺らいでしまう。
彼女の部屋で一枚しか無い写真をじっと見つめ、薄れてしまった記憶を鮮明にすべく必死に昔を思い返していた。
あんな強がりを言っても、いざ一人考えにふけ込めば李やその他、辛辣に言われた言葉を思い出す程、いかに窮地に立たされ、悪役に仕立て上げられているかが目につき、払拭せねばと奔走出来る程、何も持っていない現状が酷く悔しかった。
雷太が覚えていれば、と愚痴を溢した所で何の意味も為さず彼を咎めてしまう自分が嫌な奴に感じ、自己嫌悪に陥ってしまった。
誰にもまだ見せていない桃の部屋には所狭しと今の雷太の写真が貼られている。
ストーカーに思われるのも仕方がない。
変人だと怖がられても不思議じゃない。
でも、桃には見せない表情を誰かにするのだから嫉妬と愛とに狂い始めると歯止めなぞ聞かず、ついつい隠し撮りしては欲を満たしていた。
だからこそ、雷太はらい君で間違いないと断言出来るのだ。
「…はあ、…はあ。」
急いで階段を駆け上がる音、その音の大きさがかなり慌てふためいていると部屋越しからでも分かる程の響きようで、扉の開閉音も普段の彼からは想像出来ない乱暴に鳴り響いた。
いくら改装したとは言え、木造のアパート。
壁に耳をそ押し当て、息を潜めじっと集中すれば絶え絶えとした呼吸音が聞こえた。
これは何かあったに違いないと桃は直ぐ様、雷太の部屋へと向かおうとしたのだが、李の言葉が急にフラッシュバックする。
あんなにも動転している彼を見過ごせないと直ぐ様、駆け寄りたいのに心のふとした揺らぎが邪魔して、いつの間にか足を止め、その場から動けずにいた。
頭と体は行きたいと叫んでいるにも関わらず、心が重石となっては身動ぎ一つ取れず、どんよりと思考は霞む。
どうでもいい事ばかりが頭を過り、雷太の事を考えれば考えるだけ桃を非難する声が頭に響いた。
「らい君。助けて。もうやだ。らい君…らい君。」
気付けばうずくまり、小さくなった体は震えていた。
結論は明日分かるのにそれすら待てない程、桃の頭の中はぐちゃぐちゃに掻き混ざってしまった。




