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それ、ホントに僕ですか?  作者: 海々深々魅々美
始まりは小さな約束から
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第7話

3人の意見、「静か」で「お洒落」で「麺のある」をまとめた結果、大通りから少し外れた所にある喫茶店で話は決まった。


「うわ~。外観からもうお洒落って感じのお店だね~。」


あの後、何があったかは話さないでおくがざっくり要約すれば、抱かれ嗅がれ狂喜乱舞と言った感じか、一体こんな野郎の匂いなんかどこが良いのか。


「でしょ?」


それに、いくら昔馴染みの間柄とは言えあそこまで積極的になれるのか疑問を抱いてしまう。


況してや、ホントに僕なのか分からないと言うのに。


「雷太、入るぞ。」


嬉しそう顔で接してくるから邪険にも扱えない。


雷太は神妙な面持ちで二人の後を追った。


「へ~、中は外に似合わず綺麗だね~。」


桃は感嘆し、室内をぐるりと見回すと少し失礼な事を漏らした。


確かに外観はアンティーク調たっぷりな木造チックで蔦が張り巡らされ、いかにも古めかしくされているが内装は茶系統で統一され、床板もまだ新しく光っている。


サックスが全面に押し出されたジャズが流れる中、コーヒー豆が挽かれた香ばしさとパンケーキの甘さが部屋中に広がる。


食べずともお腹一杯だと錯覚してしまいそうな程、美味しそうな匂いに雷太は先程までのつっかえていた蟠りが吹き飛んでしまっていた。


それは、流や桃も一緒でワクワクと期待に胸を弾ませている。


「いらっしゃい。テキトーに座ってて下さい。」


カウンターから顔を見せもせず、店主は答えた。


今はお昼時、テーブル席もカウンター席もそれなりに満たされていたが、カウンターと対面の奥側のテーブル席が空いていたので3人はそこへと足を運ぶ。


のだが、桃はそそくさと足早に進み、椅子の配置を変え、雷太を誘う様に彼女の隣の椅子を優しく叩く。


「いや、あのさ……。」


僕にも恥じらいはあるし、気だって遣う。


気兼ね無いように椅子を流の隣に置こうとするも、彼女は頑なに席を譲らない。


膨れっ面になり、イヤイヤと頭を激しく横に振り、僕が何か言おうとしても聞こうとしない。


「雷太、諦めろって。」


流は諭す様な静かで力強い口調で言った。


桃もウンウンとゆっくりと確実に頷き、流の言葉に納得してるのか、したり顔で親指を立て彼にナイスフォローと視線を送っている。


「そんなに息ピッタリなら二人が結婚すれば良いのに。」


なす術無しと諦め、彼女の隣に座りながら、溜息混じりに呟いた言葉。


それは喫茶店のBGMに掻き消される程の声量で吐き出したのに、桃は悲しげに唇を折り曲げ、眉間にシワを寄せ、幸せに太腿の上でパタパタさせていた両手はいつの間にか握り拳を作り、微かに震えている。


「らい君はそんなに私の事、嫌いなんだ。」


「えっ!?」


「それなら、全部合点が着くもんね。話し掛けても、視線を合わせても、触ったりしても嫌そうな顔するもん。そうじゃないと納得いかないよ。ちょっと間は空いたけど、昔はあんなに遊んだのに……やく、そくした…のに……。」


拳の上に雫は落ちて、肩を揺らす程、悲壮に暮れる桃の姿を見れば、いくら無神経な雷太でさえ狼狽し、彼女の言葉を必死に否定する。


「白黄さんの事、嫌いじゃないよ。」


「………じゃあ、好き?」


「好きか嫌いかの二択だったら好きの方だよ。」


「……じゃあ、桃って呼び捨てで呼んで?」


「いや、まだ、ほら、さ、もう少し慣れてからね?」


「やっぱり嫌いなんだ。」


今度は泣き声を上げ、テーブルに突っ伏し咽び泣く。


と、いやでも周囲のお客さんの目を惹き、雷太は慌てて宥めようと彼女の言いなりとなった。


「ほら、も、桃、泣かないでさ。ね?」


「…私と結婚したい?」


「あー桃と結婚したいなー。でも、泣いてる桃とは結婚したくないなー。」


やけっぱちだと棒読みに言った言葉で桃はピタリと止まった。


「エヘヘ。泣き止んだよ。結婚して?」


そう言う桃の顔は笑っているのだが、鼻水やら涙やらでグショグショで。


だのに絵になるのだから、美貌は罪になるのか。


「ほら、拭きなよ。」


しかし、雷太は僅かに残った罪悪感からハンカチを取り出し渡した。


「ありがと、らい君。早く結婚したいね。」


無邪気に微笑む彼女に胸を打たれたが、僕のハンカチで拭くのでは無くわざわざ、彼女のハンカチで拭き、僕のは自然な流れで仕舞いこんだ。


「ありがと。後で使ってから返すからね。……はい。」


そうして今度は彼女のハンカチを僕に渡そうとするので、わざとらしく咳払いし、メニュー表を開いた。


「私のも使ってから返して良いからね。」


桃は無視を決め込む雷太の耳元で囁き、大袈裟に制服のポケットに詰め込んだ。


こそばゆい感覚と『使う』って何に?という疑問には敢えて何も言わない。


言ったら負けの様な気がして。


また彼女が変な事を言い出しそうなので一旦区切りを着けようと店員を呼んだ。


これだけ話してるのに、あれだけ個性的なのに、桃が誰なのか、ホントに約束したのか思い出せない。


ただ、彼女との約束は確かにしたのは覚えてる。


桃ではない彼女と。

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