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それ、ホントに僕ですか?  作者: 海々深々魅々美
策略は何処へ向かう
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第65話

不安と緊張に挟まれながらも、忌之厄災駅へは直ぐに着いてしまい得策など思い付く余裕すら無く、ただただ口内は渇き、心の準備も整わず胸に手を当てずとも鼓動が激しく胸打つのを感じていた。


予定の集合時間より三十分以上も早かったが、桃とのいざこざに巻き込まれる事を考えれば、と雷太はそれまでの余暇を使い、この五月蝿く高鳴る鼓動を落ち着かせられるのだから結果としては良い事だと結論付けた。


しかし、もう昼近くの時間帯である為にどこもかしこも行列や遠目からでも満席な所と、気を休める場所が無さそうに感じたが、バイト先へは頑として行こうとは考えなかった。


駅周辺である為にチェーン店やファストフード等は見受けられるが雷太の勤めてる軽食喫茶などは大通りへと向かえば多くなるものの、それでは行き来の時間を要してしまう。


それに加え、間違いなく朝美から茶化されるが故に先ず躊躇いが生じ、続いて面倒くさそうな気がしたのが主な理由だった。


その為、雷太は駅周辺に設置されたベンチに、自動販売機で買ったジュースを片手に休む事にした。


だがしかしベンチもまた空いている所が無く、唯一空いている場所は日向に置かれた石造りのベンチであり、暑いわ硬いわと悪い事だらけであるが、今の彼には座れるだけで十分である。


「あ!雷太君!」


そうして、先にジュースを買わなくてはと駅前に置かれた自動販売機目掛け歩いていると、突然名前を呼ばれ、驚きで肩を魚籠つかせながら声のする方向を見ると、見覚えのある女性が男二人組に囲まれ、困り果てた顔をして見つめている。


それは高校でのあの弱気で引っ込み思案な面影を一蹴させ、大人びていて綺麗な彼女、美夜の姿であった。


「美夜…さん?」


顔覚えの悪い雷太にとって随分とかけ離れたイメージに一瞬、誰か分からなかったものの声色と俯きながら見つめる癖で何とか美夜だと気付いた。


彼女は二人組の間をすり抜け、直ぐ様彼の後ろへと隠れる。


衣服を掴む指の力と小刻みな振動が如何に怖かったかを表し、小さく丸まり彼女はすっぽりと隠れてしまった。


しかし、あんなにしつこく美夜をナンパしていたであろう二人組は彼が現れるやいなや簡単に諦め、遠くへと行ってしまう。


怖くないと言えば嘘になる。


ただ、雷太の顔覚えの悪さが相手の顔をぼんやりと認識したお陰でさほど恐怖を感じなかった。


「美夜さん。もう大丈夫ですよ。」


雷太は振り向き、彼女に伝えようとするも何時までも彼の背中に隠れ、まだこのままでいたいと頭を横に振り、掴んでいた指は抱きしめる様に彼の腰へと回される。


「すいません。もう少し早く来れば良かったですね。」


「…違うの。わたしが早く来すぎたからだよ。」


「…と、取り敢えずベンチにでも座らないですか?」


ちょっとした緊張で分からなかったが、ふとこの状況に気付いた途端に美夜から漂う甘く女の子らしい香りが鼻腔を擽り、雷太の置かれている立場に再び緊張が舞い降りた。


ガチガチでぎこちない動きに加え、喉は渇き、額から汗は流れ、何よりもバクバクと高鳴る鼓動を聞かれていると思うと恥ずかしさも相まって余計に普段通りに接せられなかった。


「や、やっぱり美夜さんって、び美人だからナンパとかされちゃうんですね。いやー、ビックリですよ。ホント、ドラマみたいな……ドラマみたいな?」


そこまで言った時に違和感を感じた。


美夜には申し訳ないと思いつつも何かしら裏があるのではないかと勘ぐると、もう誰かの仕業としか思えなくなれば、脈打っていたモノは静まり、急に心は覚めてしまった。

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