第64話
「良い?ネタフリとか煽ってる訳じゃなくて!ホントに付いて来ないでね?」
あれこれと考えた結果、行き着いた先には何時も通りの服装で行くこととなり、ジーンズに薄茶色のシャツと言う随分ラフで無難な格好で雷太は再三、桃に確認を入れる。
それに対し、彼女はヘラヘラと含みの有る笑みをして何度も軽く返事をした。
「分かってるってば。誰だってデートの邪魔されたら嫌でしょ?私にだって、それ位の常識は持ち合わせてるから大丈夫だよ。」
その割に桃の服装はとても家着とは思えない様な可愛らしく、微かに化粧も施されているのだから、余計に信じられず、色んな方向から釘を刺しているのだが効果は薄い。
「…まずは普段着で言って欲しい所だけどね。」
「それは有り得ないよ。らい君の前では魅了する為に常に努力してるんだから。」
と清楚な格好で言うものの、この一週間の彼女は制服姿か寝間着かのどちらかしか見ていない気がするのだが、雷太は何も言わずに疑いの視線だけを向け、返答の代わりとした。
それも特殊な環境ではあるけれども、何から何まで掘り返していてはとても集合時間に間に合わなくなってしまので、雷太は呆れつつももう一度、丁寧に桃に確認を取る。
「もう一回言うけど付いて来たら、僕の部屋には上がらせないからね。話しもしないし、婚約してるなんてのも全部無効にするからね。良いね?」
「分かってるよ、らい君。偶々会っちゃったら仕方ない事だと思うけど、私も今日は李と話が有るから、ま~、ね?私とらい君の間には運命の赤い糸が結ばれてるから、会っちゃうかもしれないけど、本当に偶々だからね。本当、運命だからその時は仕方ないと思ってよ?」
必殺の脅し文句をもろともせず、どうやら桃はデートに合流する気でいるらしく、あわよくばぶち壊せれば良いとさえ考えているような、そんな彼女の素振りに雷太は肩を落とし頭を抱える。
「大丈夫?そんなに悩むんだったら、デートはキャンセルした方が良いよ?栗林先輩には悪いけどらい君の体調の方が大事だから、今日は安静にしよ?私が付きっきりで看病するからさ。偶然にも今日は暇だから、汗一つかかせない程、丁寧に看病出来るよ?」
コロコロと自分の予定を変える桃の言葉にはため息ばかり吐き出され、桃のその純粋な笑みに雷太はげんなりとする。
つつけばつつく程、藪から蛇がわんさか飛び出してきそうで彼女の言葉に反論せず、静かに外へと出た。
気が思いやられる桃との一悶着とは裏腹に空は雲一つない快晴で、寝不足の彼には眩し過ぎる太陽の光に軽い立ち眩みを起こす。
ふと、後ろを振り返れば少し開かれた扉の隙間から羨望と怨嗟とがない交ぜとなった視線で雷太を見つめる桃の顔が半分程、覗いていた。
どう見送れば良いのか分からず唸り声を上げ、ただひたすらに見つめる彼女に雷太は軽く手を振るだけにして、階段を降りていく。
嗚呼、と雷太は嘆いた。
桃でこれ程なのだから、大家と朝美が何か企んでいるかもしれないと頭を過ったが為に溢れた嘆きが実現しない様にと雷太は祈りながら、集合場所へと歩いていった。




